男盛り | 高橋いさをの徒然草

男盛り

男盛りと呼ばれる男性の年齢は、だいたい四十代から五十代だと思う。わたしはこの言葉を聞くと、なぜか「タワーリング・インフェルノ」(1974年)を思い出す。この映画に主演しているスティーブ・マックィーンとポール・ニューマンを思い出すからである。

本作で勇敢な消防隊長マイケル・オハラハンを演じるスティーブ・マックィーンは1930年生まれ。この映画に出ていた時、44歳である。火災に見舞われるビルの設計士ダグ・ロバーツを演じるポール・ニューマンは1925年生まれ。この映画に出ていた時、49歳である。この二人の年齢をわたしはすでに上回っていることにまず驚くのだが、映画の中の二人は実に頼もしく、男盛りの魅力が濃厚に漂っている。

わたしの四十代はすでに終わって久しいが、四十代を生きている頃、「オレは今、男盛りの真っ只中だ!」とい意識はほとんどなかったように思う。三十代からダラダラと突入して、あっという間に終わってしまった感じ。そして、そういう感覚を持っているのは必ずしもわたしだけではないのではないか?    つまり、男盛りの時代は青春時代と同じで、その時代が終わり、後から「そうだったのか!」とちょっと後悔を滲ませて気がづく種類のものなのだ。

今から20年ほど前、わたしより20歳くらい年上の先輩の舞台演出家に自分の年齢を告げたら「若いなあ」と心から言われた。「はあ」と応えたが、心の中では「そんなことない!」と思っていた。しかし、今思えば、三十代の半ばの男にわたしは同じ感慨でそのように言うと思う。年齢というのはそういうものなのだろう。だから、もうずいぶん歳を取ったと感じる今のわたしも、七十代の人から言わせれば「若いなあ」ということになるのだろう。

男盛りの年齢は、男が肉体的にも精神的にも成熟して、人生において最も活発な活動ができる年齢であるとするなら、この言葉は「働き盛り」という言葉にも重なる。男盛りの年齢の晩年に差し掛かるわたしではあるのだが、主観的にはまだ精神年齢はずいぶん若い気がする。

※わたしと後輩たち。(「Y!映画」より)