少年の犯罪~「43回の殺意」 | 高橋いさをの徒然草

少年の犯罪~「43回の殺意」

「43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層」(石井光太著/双葉社)を読む。川崎の中学一年殺害事件を描くノンフィクション。この事件は、2015年に川崎市内の河川敷で、中学一年の男の子が、友人関係にあった先輩の少年三人にカッターナイフで切りつけられて死亡した事件である。タイトルにある「43回」とは、加害少年が被害少年に切りつけたナイフの回数を示している。

著者の案内で、凶行があった三年前のあの日へ誘われる。目を背けたくなるような悲惨な事件だが、興味深いのは、被害少年の家族関係である。両親はすでに離婚していて、少年は母親と妹と共に川崎で暮らしていたが、事件にともない地方で漁師の仕事をする父親も上京して、葬式や裁判に参加する。しかし、母親との関係が友好的ではないことから、葬式では一般弔問者のように扱われ、裁判においても離婚した妻と顔を合わせないように遮蔽処理で証人尋問が行われたという。事件の本質とは関係がないかもしれないが、こういう細部が少年が置かれた家庭環境をよく語っている。

著者がインタビューしたのは、専ら被害少年の父親(本の中で母親は一切発言していない)だが、ハッキリと次のように発言しているのが印象的だった。

「三人が刑務所から出てくるのを待って、個人的に復讐するしかないと考えているんです。絞首刑みたいにいっぺんに殺したいわけじゃない。あの三人に遼太と同じ思いを味わわせたいんです」(原文ママ)

さもありなん。我が子を無残に殺された父親は、そのように思って当然だと思う。それを行動に移すか否かは当人次第だが、多くの犯罪被害者の人たちは、加害者への殺意を何とか圧し殺して生きているにちがいない。「そんなことをして死んだ我が子が喜ぶだろうか?」「復讐に手を染めるとは、犯人と同じレベルに自らを貶める行為ではないのか?」ーーそういう自問自答を繰り返しながら。

※同書。