目の悦び~「るろうに剣心」 | 高橋いさをの徒然草

目の悦び~「るろうに剣心」

新橋演舞場で「るろうに剣心」を見る。和月伸宏の原作漫画を小池修一郎の脚本・演出で舞台化。わたしの関心の外にある舞台だが、出演している女優さんに誘っていただき、観劇した。新橋演舞場へ足を運ぶのは、実に数十年ぶりである。わたしの記憶だと、中村勘三郎(十七代目)主演の「藪原検校」以来ではないか。

時は幕末から明治維新の時代。剣を人を斬るためではなく生かすために使いたいと思う主人公の緋村剣心は、仲間たちとともにアヘンを使って人々を操ることを目論む元新撰組隊士・加納惣三郎と対決する。

わたしは漫画原作の舞台をほとんど見たことがない。なぜかと言うとそういう試みに否定的だからである。だから、2・5次元と呼ばれる舞台にもなかなか足を運ぶ気にならない。つまり、食わず嫌いなのである。今回の舞台は、若いイケメンはたくさん出演しているが、主演の早霧せいなを初め、宝塚歌劇団系の女優さんが中心軸を担っていて、2・5次元の雰囲気よりも、宝塚の雰囲気が強い舞台のように(ともに詳しくないが)感じた。歌あり、踊りあり、剣殺陣ありのエンターテイメント感が満載の舞台で、上演時間2時間30分、二幕三十三場を一気に見せる。目を見張るのは豪華な舞台装置の数々と転換(回り舞台と昇降装置)の鮮やかさで、日本の商業演劇の最先端の技術を見せられた気になる。もちろん、最先端などと驚いているのは、とんと大劇場の芝居を見なくなった小劇場演劇の貧乏演出家だけかもしれないが、次から次へと場面が変わり、にもかかわらずその場面がきちんと美術的に造形されている様は、観客の目の悦びを刺激して余りある。同時にコスチュームプレイとしての華やかさも。ここでは小劇場演劇などとは比べ物に為らないくらいの桁外れのお金がかかっているのだ。

この芝居を見に来る観客はどんな人たちなのだろう?   原作の愛読者?   宝塚ファン?   イケメン好きのオバサマ?    どちらにせよ、ここには、「皿洗いの老夫婦をガッカリさせる映画は絶対に撮らないんだ」と宣言した映画監督のアルフレッド・ヒッチコックと共通する飽くなきエンターテイメント精神が息づいている。

※新橋演舞場の前で。