娘への手紙~「ミリオンダラー・ベイビー」 | 高橋いさをの徒然草

娘への手紙~「ミリオンダラー・ベイビー」

DVDで「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)を再見する。クリント・イーストウッド主演・監督によるボクシング映画。理由があって再び一見に及ぶ。

ロサンゼルスの一角にある寂れたボクシング・ジムに一人の女が現れる。マギーと名乗るそのボクサー志望の女は、トレーナーのフランキーに指導を乞う。フランキーは最初は申し出を断るが、マギーの熱心さにほだされて、いつしか女とコンビを組むことになる。フランキーの指導の元、マギーは本来の才能を開花させ、連戦連勝。ついにチャンピオン戦に臨むことになるが・・・。

本作を見直してみようと思った理由は、F・X・トゥールの原作小説(ハヤカワ文庫NV)を読んだからである。物語展開は原作小説通りだが、映画は、同じ文庫に収められている別の短編「凍らせた水」を本編に組み入れ、全編をその短編の主人公であるスクラップ(モーガン・フリーマン)というジムの雑役夫のナレーションを使って語る。また、フランキーが決別した娘に手紙を何通も出すが戻ってくるというエピソードを盛り込み、フランキーとマギーの関係を擬似的な父娘のように描いている点も映画の味わいを深めている。脚本は、その後、監督業に進出するポール・ハギス。原作者のF・X・トゥールは、元ボクシングのトレーナー(正しくは"カットマン"で、ボクサーが試合中に出血した時の止血係)で、70歳にして小説家デビューした異色の経歴の持ち主であるという。残念ながら本作の公開を待たずして2002年この世を去っている。

2016年7月14日にわたしはこの映画の感想をこのブログに書いているが、今回の感想もそれとほとんど変わらない。しかし、スクラップが淡々と語るナレーションが、実はスクラップがフランキーの娘に宛てた手紙の内容だったというラストのどんでん返しは、今回初めて認識した点だった。また、少なくともここには、人間の最愛の人に対する最大の葛藤が描かれていると感じた。わたしがフランキーの立場なら最後にあのような行動を取ることができるだろうか?   それにしてもこういう内容の映画をきちんと撮るには、やはり長い人生経験が必要なのではないかと思う。

※同作の原作。