それぞれの座組 | 高橋いさをの徒然草

それぞれの座組

東京都内で一つの重大な犯罪事件(殺人事件のような)が起こると、事件が起こった所轄の警察署内に「捜査本部」と銘打たれた場所が設けられ、警視庁から出向く捜査官と所轄の捜査官が共同で捜査を行う。(本部長と呼ばれる統括者は、その警察署の署長が務めることが多い)例えば、世田谷区で発生した殺人事件の場合、捜査本部は世田谷警察署内に作られ、世田谷警察署の担当捜査官が警視庁から出向く捜査官とともに事件の捜査に当たる。だいたいの場合、所轄の捜査官と警視庁の捜査官は初対面であると思う。それぞれの捜査官たちは協力しあいながら犯人を追跡し、犯人の検挙に至れば捜査本部は解散する。そして、その事件に携わった捜査官たちは、散り散りになり、次なる事件の捜査に向かう。

わたしは警察の人間ではないので、正しく記述できていないかもしれないが、一つの重大な事件発生に伴う警察当局の捜査方法は、そのようなものだと認識している。そして、このような捜査方法は、演劇におけるプロデュース公演の在り方によく似ていると思う。

一つの作品がある。それは劇作家が書いた戯曲である。その戯曲を上演するためにプロデューサーが人々を集める。演出家、スタッフ、俳優たちである。こうして一つの座組(カンパニー)が生まれる。彼らはある一定の期間、その戯曲を上演するための稽古をして、本番を迎える。本番が終わると、そこに集った人々はそれぞれに次なる公演に取り組むために散り散りに解散する。

【犯罪事件】
●一つの重大事件が起こる。
●捜査官たちが集まる。
●初対面の人々が協力しあい事件を追う。
●犯人を検挙し、チームは解散する。

【演劇公演】
●一つの作品がある。
●出演者やスタッフが集まる。
●初対面の人々が協力しあい稽古する。
●本番が終わり、チームは解散する。

両者の構造はとても似通っている。ある一つの目的のために人間と人間が出会い、同じ時間を共有して、解散していく。その様は人間の人生そのものを思わせる。演劇の場合、人々を集めるのはプロデューサーだが、犯罪事件の場合、プロデューサーに当たるのは事件を起こした犯人ということになろうか。

※世田谷警察署。(「世田谷警察署」より)