異国の事件~「黒い迷宮」 | 高橋いさをの徒然草

異国の事件~「黒い迷宮」

「黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実」(リチャード・ロイド・パリー著/早川書房)を読む。2000年に起こったイギリス人女性の強姦致死事件を描くノンフィクション。

著者は、様々な人々へのインタビューを試み、事件を単なる「変態による美女殺人事件」に終わらせずに立体的に膨らませることに成功している。とりわけ、ルーシーさんの家族がこの事件にどう対処したかを克明に描いている点が興味深い。すなわち、父親であるティモシー、母親のジェーン、妹のソフィーである。ルーシーの失踪をめぐり、彼女の家族たちのドラマが描かれるのだ。とりわけ、「お悔やみ金」と称された一億円の見舞い金をティモシーが被告人のOから受け取ることをめぐる父親と母親の対立は、様々な問題を提起していると思う。娘の命を金で償えるのか?

ところで、「ミッシング」(1982年)という映画がある。南米のチリで失踪した息子を探す父親(ジャック・レモン)を描いた社会派のミステリー映画である。この事件も、家族側の視点から描けば、そのような映画になるように思う。この事件の最大の特徴は、ルーシーさんの家族側から見れば、「異国で起こった事件」であるという点である。その途方もなく困難な戦いを強いられるであろう絶望的な状況。言葉も文化も違う異国での捜索。そのハードルの高さ。

逮捕され、裁判にかけられた犯人のOは、最高裁まで争ったが、有罪が確定して無期懲役の判決が下された。Oは裁判中、ルーシーさん殺害に関しては終始一貫して無罪を主張し続けた。わたしはどんな犯罪であっても罪を犯した人への理解度は高い方だと思うが、この事件の犯人は筋金入りの変態であり、最低だと思う。若い女を薬を飲ませて心神を喪失させ、凌辱の限りを尽くし、それをビデオに録画することを常習的に行っていた上に、裁判となるとそれを一切認めないのだから。改めて、理不尽な理由でこの世を去った21歳のルーシーさんの無念を思う。

※同書。(「Amazon.co.jpより)