神田駅周辺 | 高橋いさをの徒然草

神田駅周辺

とある芝居を見に行くために神田駅で下りて地下鉄に乗り換えた。「江戸っ子だってね」「神田の生まれよ」「スシ食いねえ」というやり取りは、広く知られているが(元は広沢虎三の浪曲の一節らしい)この一節から想像できるのは、神田という町は、かつて最も都会的な町だったということである。しかし、わたしにとって神田という町は、非常に馴染みが薄い町である。神田駅周辺は、オフィス街であり、飲食店が軒を連ねる繁華街であることは知っているのだが、神田駅で下車することがほとんどない。以下が現在の神田駅である。

※神田駅①

ずいぶんと古色蒼然とした駅の作りである。赤レンガ造りの建造物の上に高架線があり、そこを電車が通っている。その風情は昭和の匂いを濃厚に漂わせている。

※神田駅②

そんな古い外観が上記のような現代的な駅構内に連なっている。つまり、現在の神田駅は、古いものと新しいものが同居しているような作りになっているわけである。

わたしにとって神田という町は古本屋の町であるが、「神田の古本屋」という言い方には違和感があり、「神保町の古本屋」と言った方がしっくりくる。もちろん、神保町は「千代田区神田神保町」なので、「神田の古本屋」でおかしくないのだが、神保町の最寄り駅は神田ではなくお茶の水であり、「神田の古本屋」と言うと町のイメージが拡散して定まらなくなってしまうのだ。

わたしにとって神田駅周辺の馴染みが薄いのは、この近辺に劇場がないからである。わたしにとっての都会は、常に劇場を中心にイメージを形作っているからである。僭越ながら千代田区長にご提案申し上げるなら、神田駅周辺に劇場を作っていただきたい。そうすれば、神田駅周辺は「劇場の町」になり、わたしは足しげく通うことになるにちがいないから。