趣味と仕事 | 高橋いさをの徒然草

趣味と仕事

仕事とは、自分の快適さや快楽を省みず他人のそれのために従事することであり、反対に趣味とは、他人のためではなく自分の快適さや快楽のために行うものであるととりあえずは定義することができる。それが仕事か趣味かの分かれ目は、それが自分のための行為なのか、他人のための行為なのかという点にあるように思う。

例えば、普段は会社員として営業を担当している人間が、休日になると魚釣りへ出かけるという場合、仕事と趣味の分かれ目はハッキリしていて、誰からも非難されることはないと思う。仕事と趣味が見事に分離しているからである。例えば、普段は子育てをしている主婦が、休日になると友達と一緒にカラオケに行くことも同様である。子育ては仕事であり、カラオケは趣味であると言える。

わたしが関わっている「芝居作り」という仕事がちょっとややこしいのは、一見、趣味であり、同時に仕事でもあるという性格のせいである。それが自分のための行為なのか、他人のための行為なのかと問われても、「両方」と答えざるをえないところがある。自分のためという部分が大きくなると、わたしはたぶん芸術家と呼ばれ、他人のためという部分が大きくなると、わたしはたぶん職人と呼ばれる。

「職人を突き抜けて芸術家になるんであって、職人でない芸術家なんていないんだ」という黒澤明監督の言葉に得心して、わたしは常に職人たらんと心がけてはいるが、わたしの仕事がもしも100パーセント「他人のため」のものになったとしたら、わたしはこの仕事を辞めると思う。なんだかんだ言って、わたしはわたしが見たい舞台を作ることが一義であると考えるからである。まあ、そういう意味では、よくも悪くもわたしは職人ではなく芸術家に重心がかかっている人間なのかもしれない。

※魚釣り。(「パブリックドメインQ」より)