美女の運命 | 高橋いさをの徒然草

美女の運命

ここに男性なら誰でも振り返って見るような絶世の美女がいたとする。彼女が町を歩くと、男たちだけではなく、すれ違う女たちも彼女を振り返り、ため息をつくような美女である。彼女は、その美しい裸体をエレガントな衣装で包み町を颯爽と行く。女はどんな気分だろう?    向かうところ敵なしと言ったところか。神が自分に授けたこの肉体と美貌さえあれば、この世のすべては我が手に収まるという快感。そのほとんど陶酔的な万能感が女の気分を高揚させる。女にとって世界は限りなく親和的で美しく見えていることだろう。

そんな女に訪れるべき運命とは何か?   それは次のような運命であると思う。ある日、女は別れた男と遭遇する。男は女のことを忘れられず、ストーカーとなってつきまとっているのである。女は男を邪険に扱い、「あんななんかにもう用はないの!」と言ってその場を立ち去ろうとする。すると、逆上した男は、女の顔に硫酸の液体を浴びせる。絶叫とともにその場に倒れる女。

女の世界は一変する。それまで親和的で美しく見えていた世界が、たくさんの悪意を伴って彼女に逆襲してくる。女に突き刺さる人々の好奇と哀れみに満ちた目。かつて人々の目を釘付けにした美貌を持っていた女だからこそ、醜く爛れたその容姿との落差は限りなく大きい。女は自死することを選ぶのか?    あるいは、屈辱に耐えながら生きることを選ぶのか?

絶世の美女(ただの美女ではない)が辿る「正しい運命」とは、このようなものではないか。この世のものとは思われぬ圧倒的な美貌は、必ず不吉な悲劇を招き寄せるものにちがいないから。

※絶世の美女。(「モデルプレス」より)