警官殺し | 高橋いさをの徒然草

警官殺し

仙台の交番で警察官が近くに住む大学生に刃物で刺されて殺害されたという記事をネットで読んだ。大学生は別の警察官にその場で拳銃で射殺されたという。日本では余り聞かない非常に物騒な事件である。記事によれば、大学生は「落とし物を拾った」と言って交番にやって来て、警察官に襲いかかったらしい。

連想するのは、1989年に起こった中村橋派出所警察官殺害事件である。この事件は、西武池袋線中村橋駅近くの交番付近で、職務質問をした警察官が元自衛官の若い男にサバイバルナイフで襲われて殺害された事件である。男の動機は拳銃を奪うためであった。つい最近も、富山県の交番で警察官が若い男に襲われて殺害され、拳銃が奪われる事件が起きたばかりだ。今回の事件もこれらの事件同様、犯人は拳銃を奪う目的で犯行に及んだのだろうか。犯人の動機がもしもそのようなものなら、まったく短絡的と言わざるを得ないが、確かにある種の人間にとって、拳銃という武器は非常に魅力的なアイテムに見えるのだろう。大袈裟に言えば、法治国家である日本において、警察官が携帯している拳銃こそ、国家権力の最も象徴的な小道具であるのだから。

数ある殺人事件の中でも「警官殺し」がわたしたちにとってセンセーショナルなのは、法と秩序の番人である警察官を殺すという行為が、現行の権力構造に真っ向から歯向かう反逆行為だからである。そういう意味では、一般市民による「警官殺し」は、息子による「父親殺し」とちょっと似ているように思う。その国に君臨する支配者に下位の者が反逆するという点で両者は似ている。亡くなった警察官のご冥福を祈る。

※交番。(「警視庁」より)