恋人失踪の謎~「ザ・バニシング ―消失―」 | 高橋いさをの徒然草

恋人失踪の謎~「ザ・バニシング ―消失―」

ビデオで「ザ・バニシング ―消失―」(1988年)を見る。オランダ映画。後にアメリカでキーファー・サザーランド主演で「失踪」(1993年)としてリメイクされたサスペンス・スリラー映画。

オランダ人のカップルであるレックスとサスキアは、フランスへ気ままな自動車旅行をする。その途中、とあるドライブインでサスキアが神隠しにでもあったように失踪する。レックスは、サスキアを探すがその行方は杳(よう)として知れない。三年後、新しい恋人もできたが、未だにの探索をあきらめていないレックスの前に「彼女を誘拐したのはわたしだ」という誘拐犯が現れる。

「失踪」はすでに見たことがある映画だったが、オリジナルである本作は初見である。派手なことは一切何も起こらないが、ジワジワと恐怖感が募ってくるようなスリラーである。とりわけ感心したのは、犯人が追跡者であるレックスの前に現れ、「彼女がどうなったか知りたいか?」と迫り、被害者であるレックスを思いのままに操っていくという展開である。レックスにとってどんな大金よりも魅力的なのは、「サスキア失踪の真相」であるという真実の提示。レックスが真相を知りたいがために犯人への服従を受け入れるところがドラマチックである。本作は江戸川乱歩が定義した「奇妙な味」の小説の雰囲気を持っている。

「ある人物が失踪する。警察が捜索しても、行方は杳として知れない。動機も不明。形跡もつかめず、まるで空中に忽然と消失してしまったかのよう。こういう発端で始まるミステリは、わたしの何より好むところである。どうかすると、タイトルに『失踪』とか『行方不明』といった文字が入っているというだけで、胸がときめいてその本を買ってしまうことがある」(「夜明けの睡魔」瀬戸川猛資/創元ライブラリ文庫)

わたしも瀬戸川さんと同じ血が流れているのか、こういう"失踪もの"には、ひどく想像力を刺激される。「バルカン超特急」「バニーレークは行方不明」「フランティック」「フライトプラン」「消えた花嫁」「蛇のひと」「ゴーンガール」と次から次へと"失踪"を題材にした映画が想起される。リメイク版では主人公の新しい恋人が活躍し、結末がハッピーエンドであるが、本作はバッドエンドである。後味は悪いが、こちらはこちらで面白い。

※同作。(「Amazon.co.jp」より)