追悼・深水三章さん | 高橋いさをの徒然草

追悼・深水三章さん

俳優の深水三章(しんすいさんしょう)さんが亡くなった。年末の忘年会帰りに自宅前で倒れたという。昨年の秋に、深水さんの出演する朗読劇を新宿のバーへ見に行き、久しぶりにお会いして歓談したばかりだった。今日は追悼の気持ちで深水さんとの思い出を書く。

出会いは数年前に遡る。とあるプロデューサーの方に深水さんの出演する舞台の脚本を書かないかとお誘いを受け、新宿三丁目のバーでお会いした。結局、その舞台は様々な事情から実現しなったのだが、それをきっかけにお近づきになった。わたしにとって深水さんは、「ミスタースリムカンパニー」の中心俳優であり、向田邦子が脚本を書いたテレビ・ドラマ「阿修羅のごとく」で四女の恋人であるボクサー役を演じた人だった。わたしはミスタースリム時代の深水さんの舞台を直に見ているわけではないのだが、わたしが演劇に目覚めた頃、ミスタースリムは、「東京キッドブラザース」と若者の人気を二分するミュージカル劇団だった。

昨年、お会いした時もそんな昔話になり、深水さんが東京キッドの役者としてニューヨークのラ・ママ劇場で「黄金バット」を上演した時の話を聞いた。(深水さんは元は東京キッドに所属していた)帰りの飛行機代がなくて大変だったと笑っていたが、そんな話をする深水さんの表情は実に楽しそうで、無鉄砲だったが輝かしい青春時代への自信と誇りを想像させた。観劇した朗読劇においても溌剌と役を演じていて、パワーをひしひしと感じた。

「オレ、君のことは好きだから、これからも付き合っていこうよ」

公演の企画が頓挫した後、深水さんはわたしにそんな言葉をかけてくれた。思うに、この人ほど革ジャンにリーゼントが似合う人もいなかったのではないか。腰をくの字に曲げて、額の髪を銀のクシでかきあげるしぐさが、こんなに格好よく"キマる"人をわたしは他に知らない。つまり、深水さんはわたしにとって「永遠の不良少年」なのだった。仕事をご一緒できなかったのが心残りだが、それが天命ならあきらめるしかない。謹んでご冥福を祈ります。さようなら、深水さん。

※深水三章さん。(「Web Dice」より)