狂気の人体実験~「ムカデ人間」 | 高橋いさをの徒然草

狂気の人体実験~「ムカデ人間」

DVDで「ムカデ人間」(2010年)を見る。ずっと二の足を踏んでいたが、やっと見る気になったオランダ製の奇想天外なホラー映画。

ヨーロッパを旅行中の二人のアメリカ人女性が乗った車が故障する。彼女たちが助けを求めた一軒家に陰気なドイツ人の男がいた。その男に薬で眠らされた二人が目覚めると、地下室のベッドに日本人男性とともに寝かされている。男はマッド・サイエンティスト。彼は人間の口と肛門を結合させる"ムカデ人間"を作ろうと、三人の"結合"に着手する。

この内容を知れば、アナタもわたしが二の足を踏んだ理由がわかっていただけるのではないか。世にはおぞましい内容の映画はたくさんあるが、これほどふざけた発想の映画もなかなかない。いや、逆に言えば、これほどセンセーショナルな内容の映画もなかなかない。実際、うら若き女優さんが"そのような状態"で画面に現れた時、わたしは少なからずショックを受けたのだから。この悪魔的な発想による映画の内容を「胸くそ悪いゲテモノ」と捉えるか、「素晴らしい稚気」と捉えるかによって評価は分かれるのではないか。わたしはその中間である。重要な役で日本人俳優が出ているのにもちょっと驚いた。

本作で描かれるマッド・サイエンティストにはモデルがいるという。第二次世界大戦中、ドイツの強制収容所の囚人を使って非人道的な生体実験を繰り返したヨーゼフ・メンゲレである。アイラ・レヴィンの「ブラジルから来た少年」のもう一人の主人公。

●ヨーゼフ・メンゲレ
第二次世界大戦中にアウシュヴィッツで勤務し、収容所の囚人を用いて人体実験を繰り返し行った医者。実験の対象者やガス室へ送るべき者を選別する際にはSS(親衛隊)の制服と白手袋を着用し、クラシック音楽の指揮者さながらに作業にあたったと伝えられ、その姿を見た人々からは「死の天使」と呼ばれ恐れられた。(「Wikipedia」を要約)

確かにこの人なら本作に描かれるような「狂気の人体実験」に大真面目に取り組んだかもしれない。それにしても本作ほどテレビ放映しにくい作品もなかなかないのではないか。「公序良俗を乱す」とは、このような内容を指すにちがいない。子供たちの健全な育成を考える教育委員会の人たちが怒髪天を衝いて怒り狂うような内容。もしも江戸川乱歩が生きていて本作を見たらどんな感想を持っただろうかなどと考えた。

※ムカデ。(「心理学の時間ですよ!!」より)