寺山修司の思い出 | 高橋いさをの徒然草

寺山修司の思い出

テレビ・ドラマ「早春スケッチブック」に登場する山崎努さん扮する沢田竜彦は死期が近いカメラマンである。彼は今は再婚して平和な家庭を営む元妻の前に現れて、自分の実の息子に影響を与えようとする。

作者の山田太一さんのエッセイで知ったが、山田さんの盟友・寺山修司さんはこのドラマを毎回楽しみに見ていたという。寺山さんは当時、病に犯されて余命いくばくもない状態だった。寺山さんは自分を竜彦に重ねているフシがあったと山田さんは言う。確かにさまざまな分野で常識を覆す実験を試み、異才を発揮した寺山修司の姿に破天荒な沢田竜彦の姿は重なるところがある。また、同じエッセイに山田さんの自宅を訪れたからだの具合の悪い寺山さんが「本棚を見せろよ」と言って山田さんの書斎の本棚を丁寧に見て回ったというエピソードが印象に残っている。

わたしは一度だけ寺山修司さんを直に見たことがある。確か1970年代の終わりのことだ。渋谷にあったジァンジァンという小さな劇場へ「観客席」という芝居を見に行った時だ。その舞台は高校生のわたしには相当に衝撃的なものだったが、帰り際にロビーに寺山さんがいるのに気づいた。黒いコートを着ていたと思う。わたしにとっては神格化された人だったのでドキドキしてその姿をチラチラと盗み見た。心の中で「テラヤマ・・・」とつぶやきながら。すると、一緒に芝居を見に行った友人のWが無謀にも寺山さんに話しかけた。「わっ!」と思ったが、Wは普通に寺山さんとしゃべっていた。Wは寺山さんに名前を聞かれて嬉しそうに答えていた。

寺山さんが亡くなるのは「早春スケッチブック」が放送された1983年である。47才の若さだった。思うに、この人が実践した常識破りの演劇作りを越えるスケールの演劇人は未だにいないように思う。


※寺山修司さん。(「寺山修司記念館」より)

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[ご案内]
L&L企画舞台公演
「フクロウガスム」
●脚本/えのもとぐりむ
●演出/高橋いさを(劇団ショーマ)
●日時/2月22日(水)~2月26日(日)
●場所/中野劇場HOPE

ご来場を心よりお待ちします。