少女の未来 | 高橋いさをの徒然草

少女の未来

「千葉県芝山町の畑で2015年4月、同県船橋市の女性=当時(18)=の遺体が見つかった事件で、強盗殺人と逮捕監禁の罪に問われた無職少女(19)の裁判員裁判の判決が3日、千葉地裁であった。松本圭史裁判長は〈犯行の起点を担い、重要な役割を果たした〉と述べ、求刑通り無期懲役を言い渡した」(「JIJI.com」より)

こんな記事をネットで見かけた。19才の少女に無期懲役とはずいぶん重い刑罰だが、この少女は同い年の少女から金を奪った上に畑に「生き埋め」(!)にしたのだから、その犯行の態様は極めて残虐である。だから、無期懲役もやむなしと思うが、いくら残虐な犯行に及んだとは言え、19才の加害少女の未来を慮ると何とも複雑な気持ちになる。

19才の時、わたしは志望の大学に入れず、原宿にあるとある予備校に通っていた。高校時代の同級生と一緒に予備校の教室で英語や古文の勉強をしていたのだ。昼休みには予備校の一階にある立ち食いそば屋で安いそばをすすっていた記憶だけが残っている。冴えない19才だった。それから38年の時間が経ち、わたしは今年56才になる。無期懲役の判決を受けた加害少女が出所する可能性があるのは、現在のわたしくらいの年齢の時である。つまり、加害少女はわたしが今までに経験した楽しいことをほとんど経験しないまま中年期を迎える。彼女の絶望はいかばかりか?

いや、そんな心配をしているのは事件にまったく無関係な外野のオヤジだけであって、当人は案外、淡々と自分の運命を受け入れるのかもしれない。そもそも慮(おもんぱか)るべきなのは、加害少女の未来ではなく、若くして残虐に殺害された被害少女の無念の方であるかもしれない。それでもなお本件の加害少女の未来をわたしが憂慮してしまうのは、世にある服役囚の中で、最も長い刑期を務めるであろう彼女のその膨大は時間ゆえである。加害少女はわたしが知る限り、日本にいる最年少の無期懲役囚だからである。そして、そんな判決を下した裁判員たちの苦渋を思う。


※海辺の少女。(「and B」より)