サイログロブリン | 高橋いさをの徒然草

サイログロブリン

某日、久しぶりに東京地裁へ行き、裁判傍聴。本日、傍聴したのは「傷害致死」の裁判員裁判(審議)である。掲示物に被告人の氏名表示がなく「犯行時少年」とある。ということは、家庭裁判所で処理せずに「逆送」された案件であるということか。わたしの裁判傍聴経験から言っても珍しいケースである。審議の途中からの傍聴であったが、被告人が手錠に腰縄姿で登場した時にちょっと意表を突かれた。うら若き女子だったからである。上下黒のスーツ姿で、眼鏡をかけ髪を結っている。審議は証人尋問の場面である。証人は老齢の白髪男性。血液研究に関する専門家らしい。

弁護側、検察側の質問から少しずつ明らかになってくる事件の全容は、被告人の女性が我が子である乳幼児をうつぶせにしたまま放置して死に至らしめた事件らしい。争点になっているのは、たぶん事故か、被告人が首を絞めたかということである。尋問の中で繰り返されるキーワードは「サイドブロクミン」と聞こえたが、調べてみたら正しくは「サイログロブリン」であった。

●サイログロブリン
サイログロブリンとは、甲状腺ホルモンの前駆物質で、甲状腺濾胞細胞で合成・貯蔵されている。TSHの刺激を受けると、サイログロブリンはペルオキシダーゼの作用を受けて甲状腺ホルモンであるT3やT4となり様々な働きをする。

この説明を聞いてもまったくわからない。しかし、たぶんこの「サイログロブリン」の数値によって検察側は被告人の犯行を証明しようとしているのだと思われる。被害者はうつぶせになったから死んだのではなく、人為的に首を絞められたから死んだのだ、と。正直に言うと、こういう専門的な証人尋問は見ていて退屈である。30分くらいなら耐えらるが、60分になるとちょっと眠くなってくる。

被告人が罪を犯したにせよ、そうでなかったにせよ、うら若き女子である被告人は、自らの裁判で「サイログロブリン」が問題になるとは夢にも思わなかったにちがいない。どんな判決が出るのかは現段階では神のみぞ知るだが、今後の彼女の人生において「サイロブログリン」は生涯忘れることができない言葉になるであろう。


※甲状腺。(「COMPAS」より)