他人が作る豆腐 | 高橋いさをの徒然草

他人が作る豆腐

わたしはこのブログに映画の感想は書くが、芝居の感想は書かないようにしている。(例外はあるが)なぜかと言えば、芝居の感想は書きにくいからである。作り手が知り合いであったりする場合が多いので、下手なことを書くとその人との関係が気まずいものになる可能性がある。ごく稀に褒め言葉しか思いつかない芝居に出くわすことはあるが、それでも芝居の感想は書きにくい。わたしが映画の感想を気ままに書くのは、わたしが映画を作る側の人間ではなく、見る側の人間だからである。

ところで、「現実と切り結ぶ」という言い方がある。表現が絵空事ではなく、我々の実社会の現実に直結しているような場合、使われる言葉だと思う。現実に拮抗しようとしている表現とも言える。そういう意味では、わたしはこのブログの文章を通して「現実と切り結んで」いないのかもしれないと思う。現実と切り結ぶには、誰かが不快に思おうと、誰かがその文章を読んで傷ついても、あくまで真実を書き記さねばならないと思うからだ。つまらぬ芝居があったら、「こんなつまらぬものを金を取って見せるとは、いったいどういう料簡だ!」と怒る必要があるのかもしれない。そうは思いながら、なかなか他人の芝居を俎上(そじょう)に乗せる気にならない。そもそも、「現実と切り結ぶ」のは、ブログの文章ではなく、実際にわたしが上演する舞台を通して実現するのが本道であろう。それにわたしは評論家ではない。

だから、わたしが観劇した舞台のことに触れていなくても、関係者の方々は気にしないでいただきたい。豆腐屋はケーキの美味さについて語っていいが、他人が作る豆腐についてあれこれ言ってはいけないと思うのである。


*豆腐。(「ていすぴー」より)