夫の気持ち | 高橋いさをの徒然草

夫の気持ち

「茨城県笠間市でパトカーの追跡を受けていた車が事故を起こして女性が死亡し、運転手が逃走した事件で、33歳の男が逮捕されました。男は無免許でした」(8月21日)

先日、こんな記事を見かけた。女性は23歳で、運転していた22歳の夫も重傷だという。つまり、夫は何の前触れもなく、若い妻を突然失ったというわけである。生き残った夫の気持ちを想像するといたたまれない。

交通事故は毎日起こり、毎日どこかの誰かが命を落としているのだとは思うが、この事故がちょっと特異なのは、事故を起こした男が無免許で警察から逃走中であったという点である。しかも、男は事故を起こした後、救護もせずになおも逃走し、その後に逮捕されたのだ。単なる不注意運転ならまだしも、裁判になった時に裁判員たちの被告人への心証は限りなく悪いにちがいない。命をとりとめた夫も、単なる事故なら諦めようもあるが、逃走車に衝突されて理不尽に妻を殺されたとなると、怒りの矛先は勢い事故を起こした男へ向かうことになるのではないか。彼は「無免許で車を運転し、警察に追われて逃げた男」に妻を殺されたのだ。被害男性の処罰感情は、最大のものであろう。

わたしは運転免許を持っていないので、道路交通法についてまったく疎いのだが、本件は「危険運転致死傷罪」で起訴されて15年くらいの実刑が下されるのではないか。しかし、夫にしてみれば「たかが15年」である。犯人は40代で刑務所から出てくるのだ。法は万物に対して中立であるべきだと思うものの、被害者の心情と法の下す量刑は、常に大きな隔たりがあるにちがいないと思う。たぶん妻を失った夫の無念は計り知れないだろうから。


*交通事故。(「雑談ネタ倉庫」より)