下北沢の「わたしとアイツの奇妙な旅」 | 高橋いさをの徒然草

下北沢の「わたしとアイツの奇妙な旅」

下北沢レンタルスペース スターダスト(下北沢駅南口徒歩1分)で「わたしとアイツの奇妙な旅」を見る。Witの公演として2011年に上演した拙作を若い役者さんたちが装い新たに上演してくれた。一人の男の性の遍歴を彼の「男性器」との会話を通して(徹底的に男目線で)描くというこの奇想のセックス・コメディを若い人たちがいかに料理しているのか楽しみにしていた。照明機材も乏しい環境での公演だったが、その制約を制約と感じさせない演出の工夫と三人の出演者の熱演を作者として楽しんだ。

「人間関係の起点は親子関係であるが、親子関係で形成された人間関係の障害がのちになって最も典型的に露呈するのは、男女関係、恋愛関係においてである。恋愛関係はしばしば親子関係の反復である」(岸田秀著「唯幻論物語」文春新書より)

論創社から出版した本作の戯曲集の巻頭言として掲げた文章である。つまり、その人間の恋愛におけるトラブルを引き起こす根本的な原因は、過去におけるその人間の親子関係にあると岸田さんは言っていると解釈した。確かにわたし自身の過去の経験を省みても、思い当たるふしがある。こう言うとちょっと恥ずかしいが、わたしは母親に溺愛されて育った一人息子である。当初、この芝居でそんな母とわたしの関係を描くつもりはまったくなかったが、筆がいつの間にかそちらの方に滑り、結果としては岸田さんの説を裏付けるような内容になったように思う。どちらにせよ、男性が後に形作る「自分のタイプの女」の原型は、だいたいにおいて自分の母親であるのではないか?

誰にも言っていないはずだが、本作はアルベルト・モラヴィアの小説「わたしとあいつ」(講談社)にインスパイアされて書いたものである。この小説にも主人公(映画監督)の男性器が登場する。ところで、内容はまったく知らないのだが、「ヴァギナ・モノローグ」というタイトルの女性器を主人公とした芝居があるそうで、本作の作者としてはどんな芝居なのか興味津々である。本日まで(14:00/19:00)公演中。


※出演者の桧山征翔(ひやませいと)くんと。