すぐれた役作りとは | 高橋いさをの徒然草

すぐれた役作りとは

わたし=高橋いさをを知っている人は、わたしにどんなイメージを持っているだろうか? 多くの人が演出家としてのわたしと接していることが多いはずなので、だいたいイメージは次のようなものではないかと思う。

〇神経質そう。
〇怒ると恐い。
〇抜目ない。
〇論理的。
〇皮ジャン。
〇白ではなく黒。

それはそれで間違っているとは思わないけれど、正直に言うと全然違う。そういう要素もあることは認めるけれど、例えば、わたしが実は非常に動物好きだということを知ったらあなたはどう思うだろうか? 街角で出会った猫を撫でたくてその猫を追い掛けているわたしの姿をあなたは想像できるだろうか? 近くの家の飼い犬とじゃれあっているわたしの姿を想像できるだろうか?
何が言いたいかというと、人間を職業の先入観だけで判断することは大きな間違いだということを言いたい。現実の人間は大概大きなギャップを持って生きている。医師と言えば冷徹で、殺し屋と言えば残酷で、ホステスと言えば計算高く、警官と言えば正義感が強く、役人と言えば態度がでかいというようなイメージは紛れもなく先入観=通念である。立体的な人物像とは、そうい先入観を覆す要素をそれと同時に体現できた時に生まれる。映画「レオン」の殺し屋が共感を呼ぶのは、あの殺し屋が殺し屋という我々の先入観を覆し、立体的に造形されているからに他ならない。あいつは人殺しだが、観葉植物を育て、牛乳を飲み、ミュージカル映画が好きで、困っている女の子に優しい殺し屋なのだ。つまり、他人を複眼で見る力の必要性。
翻って、ここにすぐれた「役作り」の秘密があると思われる。