白毛のサラブレッド。

 

日本で生まれた白毛馬たち。突然変異による6頭、その白毛遺伝子を残すべく関わった人々の努力と情熱で34頭の子孫が生を得た。

 

 

1979年、突然変異で生まれたハクタイユーがわが国初の白毛馬だった。

 

芦毛馬が年齢とともに白くなり、引退して真っ白になるのはよく見かけるが、

競走馬となる前から全身真っ白な馬の姿を見ることは、衝撃でもあった。

 

話題にならないはずがない。

 

競走馬としては4戦0勝。それでも白毛遺伝子残したい馬主の熱意で種牡馬となり、細々ながら子孫は続いた。

 

その仔でサイアーラインを継いだハクホウクンが地方・大井で3勝したのが最高で、競走馬としては活躍馬を出せないままだった。

 

 

 

1996年、4月4日。北海道早来町・ノーザンファームで、日本で3頭目の突然変異の白毛馬として生まれた牝馬。

 

父サンデーサイレンス、母ウェイブウインド。母ウェイブウインドはアメリカから来た未出走の繁殖牝馬。ノーザンファームのサンデーサイレンス産駒となれば、その資質は高く評価されて当然。

 

ではあったが、『希少なだけで競走馬として、実際、どうなんだ?』懐疑的な意見も多かった。

 

 

馬主となったのは金子真人氏だ。1976年、某企業の社員時代の部下4人とともに図形処理技術研究所を創業。株式会社図研として、1994年には東証1部上場企業にまで成長させた。

 

熱き志を持って『信念』を具現化する人物。東京2部上場の際には、約400人の社員に無償で50株ずつ贈与したという・・・・・・ともに歩む人々と喜びを分かち合う意識の強い人なのかもしれない。

 

 

いまでは有名になった『黒、青袖、黄鋸歯形』の金子氏所有馬の勝負服。

 

ディープインパクトをはじめ、キングカメハメハ、クロフネ、アパパネ、カネヒキリ、ブラックホーク、トゥザヴィクトリー、ユートピア、ピンクカメオ、ラブリーデイ、マカヒキ、ワグネリアン、馬主として多くのG1馬を輩出。

 

競馬界で最も運のいい馬主ともいわれているが、そこには事に当たることにおいての強い探求心と、すべてにおいて『選ぶ眼力』があるのではないか、と思われる。

 

馬を持つことを勧められ、紹介されたノーザンファームの吉田勝己氏を『パートナーとして信じられる』と感じ、牧場の広大な風景に感銘を受けたという。ノーザンファームの人と環境なら馬をすくすくと育てられると直感したのだろう。

 

 

馬は自分で選ぶという金子氏。その時、一番気を付けるのが『目』だという。『目(目つき)の悪い馬は、どんなに血統や馬体が良くても手を出しません』

 

そんな金子氏によって選ばれた白毛馬。シラユキヒメと名付けられた。その瞳の中に映る未来を、金子氏はどう見ていたのだろうか・・・・・・。

 

 

 

5歳2月、大幅にデビューが遅れたシラユキヒメは4歳以上500万下条件戦・芝1200mに初出走。最後方から上がり最速ながら、11着だった。

 

その後も8戦、計9戦0勝、3着1回で競走馬引退となった。

 

 

走らなかったのは『白毛』のせいではない。

 

数万頭に1頭ともいわれる希少な毛色の血。『突然変異』という人智に及ばないところから生まれてきたシラユキヒメが、両親もどの兄弟も持たない『白毛遺伝子』を持つという。

 

その奇跡の白い馬体。

 

白毛遺伝子が受け継がれるのは、メンデルの法則で50%。

 

 

絶やしてはならない。

 

シラユキヒメは、選ばれしものなのだから。

 

良血を無駄にできない・・・・・・その使命感、か。繁殖牝馬として仔を産むこととなった。

 

 

種牡馬として交配したのがブラックホール、クロフネ、キングカメハメハ。すべて金子氏が競走馬時代に所有していた馬たち。

 

そして、シラユキヒメの仔もすべて金子氏が所有した。

 

2003年生まれ、シロクン(父ブラックホール)は5戦0勝。

 

2004年、クロフネを父に持つホワイトベッセルは未勝利戦ダートで勝ち、白毛馬JRA初勝利を上げ17戦3勝。

 

2005年、初めての牝馬ユキチャン(父クロフネ)は3戦目のミモザ賞で初の芝レースを勝ち、クラシックめざしてフローラSに出走したが7着。ダート重賞・関東オークスを勝利し、ダート路線を走り出した。その間、中央芝レースにも臨んだが、クイーンS9着、秋華賞17着。17戦5勝。クイーン賞、TKC女王盃競走を含めダート重賞3勝。

 

2007年、ママズディッシュ芦毛(父クロフネ)、10戦0勝。

 

2008年、シラユキヒメの2008、不出走。シロベエという名で京都競馬場で誘導馬。

 

2009年、マシュマロ(父クロフネ)12戦2勝。

 

2010年、ブラマンジェ(父クロフネ)、3戦0勝。

 

2011年、マーブルケーキ(父キングカメハメハ)、栗毛の斑点があるブチ模様の白毛馬。17戦3勝。

 

2012年、ブチコ(父キングカメハメハ)、鹿毛の斑点があるブチ模様。馬名の通り。16戦4勝。

 

2014年、シロニイ(父キングカメハメハ)、わずかな斑点があるブチ模様。35戦4勝現役。阪神大賞典で12番人気4着に健闘。

 

2015年、シラユキヒメの2015鹿毛、未出走。

 

2016年、ブッチーニ(父キングカメハメハ)、芦毛の斑点があるブチ模様。7戦2勝現役。

 

 

2019年、5月5日、シラユキヒメは23歳で永眠した。

 

12頭の仔を産み重賞勝ち馬も出したが、総じてダートの活躍が多く芝のスピード競馬にその資質は、まだ生かされていない。

 

マシュマロの仔、シラユキヒメの孫であるハヤヤッコは未勝利戦で芝レースを勝利。3歳ダート重賞のレパードSを勝ち、現在もダート重賞でがんばりを見せている。

 

 

良血シラユキヒメ、金子真人オーナーのめざす『白毛遺伝子』を繋ぐ長い長い旅。

 

多くの仔に繋がれ、

 

孫へ。

 

 

繋がっては途切れるサラブレッドの膨大な系譜の中では、細く細く短いものかもしれない。

 

 

それでも繋いでいく。

 

 

良血を、白毛遺伝子を絶やしてはならない。

 

 

そして、

 

 

現れた。

 

 

白毛の系譜を歴史の中に刻み込む馬が・・・・・・。

 

 

父クロフネ、母ブチコ。

 

 

金子真人オーナーゆかりの血を結集した『白毛馬』。

 

 

『純粋』、『輝き』、その名はサンスクリット語で・・・・・・ソダシ。