1996年、2月22日。北海道・早来町、ノーザンファームで生まれたトゥザヴィクトリー。
父サンデーサイレンス、母フェアリードール。
サンデーサイレンス産駒として期待の大きかった牝馬。
桜花賞3着、オークス2着も秋華賞では1番人気13着と、G1にはなかなか手が届かないもどかしさのあった馬。
古馬となって牝馬重賞を連勝するもエリザベス女王杯は4着。闘争心の強すぎが『かかる』という悪癖を生じたための敗退。
5歳になって、ダートに転じてのG1狙い。初ダートでのフェブラリーS3着。海外へ飛んでドバイワールドカップ2着。芝・ダートを問わぬ類い稀なる才能を見せたがG1制覇はならなかった。
5歳秋、ドバイワールドカップ以来の7カ月半ぶりの実戦。エリザベス女王杯で、それまでの先行策から一転、後方待機。直線一気の切れ味を見せて、ともに追い込んできたローズバドをハナ差振り切り勝利。念願のG1制覇を果たした。
母となり、つねに期待された産駒。
キングカメハメハを父に持つ4番仔トゥザグローリーは、ペルーサ、ヴィクトワールピサ、ローズキングダム、エイシンフラッシュ、ヒルノダムール、ルーラーシップ、ダノンシャンティ、『黄金世代』と戦い、重賞5勝を上げたがG1制覇はならなかった。
G1挑戦14回、有馬記念14番人気3着、9番人気3着が最高だった。
重賞連勝で1番人気、絶好調で臨んだ天皇賞春は、途中で先頭に立ってしまう波乱の展開に巻き込まれて13着敗退。
母トゥザヴィクトリーを超えることはできなかった。
2011年、4月11日。北海道・早来町、ノーザンファーム。
父キングカメハメハ、母トゥザヴィクトリー。4番仔トゥザグローリーの全弟として生まれたのがトゥザワールドだ。
兄を超え、母を超え、世界に羽ばたく馬として、期待の『十字架』を背負って生まれた仔。
2013年、9月。新馬戦、単勝1.9倍。絶大な人気もバンドワゴンの2着。
その後、未勝利戦、黄菊賞(500万下)、若駒S(オープン)と3連勝。クラシック候補に名乗りを上げた。
2014年、春。1番人気で迎えた皐月賞トライアル・弥生賞ではワンアンドオンリーにハナ差、競り勝ち4連勝。
共同通信杯を勝ち3連勝のイスラボニータ、きさらぎ賞を勝ち3戦3勝のトーセンスターダム、弥生賞2着のワンアンドオンリー相手に、堂々の1番人気で皐月賞に挑戦。
早くも兄を超える時が来たトゥザワールド。
3番手から直線に入り先頭も、イスラボニータに差され2着。
ダービーこそは・・・・・・燃える思いとは裏腹に、進まぬ身体。中団後方から差を詰めると切れ味はなく、5着に敗れた。
セントライト記念2着で臨んだ菊花賞は、とんでもない惨敗の16着。
初の大敗。
力の無さを憂うしかないのか!
年末、有馬記念に出走となったトゥザワールド。
2010年・2011年、2年連続有馬記念3着だった兄トゥザグローリー。5年連続有馬記念出走を願っていたが、12月11日、無念の引退発表。
決して兄の代わりのなどとは思わない。もう思い悩むことはない。
いまある力を、ただただ、ぶつけるだけ。
2014年、12月28日。有馬記念。
1番人気ゴールドシップ、2番人気エピファネイア、3番人気ジャスタウェイ。
ジェンティルドンナ、ワンアンドオンリー、フェノーメノ、トーセンラー、ラキシス、ヴィルシーナ、メイショウマンボ、10頭のG1が勢揃いした。
ヴィルシーナが逃げ、エピファネイアが2番手。3番手を牝馬ジェンティルドンナが行く。
後方5,6頭目を行くゴールドシップ、その後ろのジャスタウェイ。
トゥザワールドは7番手、内につけた。
淡々と進むスローペース。レースが動いたのは3コーナー過ぎだ。
外から一気の捲りを見せるのはゴールドシップ!
後ろにウインバリアシオンを引き連れ、猛然とスパートして見せた。
4コーナーではエピファネイアが先頭に立ち、追いかけるラキシス、ジェンティルドンナ!
大外、迫る!ゴールドシップ。
ジャパンカップを4馬身差、完勝したばかりのエピファネイア。強靭な粘り脚!
迫るのはジェンティルドンナ!
大外からはゴールドシップ!
さらに、鋭い脚で前に迫る、ジャスタウェイだ!
実力馬たちが鎬を削るデッドヒート!
満を持したかのように、内から影のように抜け出してきた馬。
最内エピファネイア、その外から抑え込んで抜け出そうとするジェンティルドンナ。
そのわずかな隙を突っ込む・・・・・・トゥザワールドだッ!
G1を勝たなくてはならないッ!もう、そんな気負いはない。
周りを囲むG1馬たち!・・・・・・そんな気後れは、ない。
ただ、ただ、母さんから貰った『血の誇り』にかけて走るだけ。
全力で脚を動かす、前を、前をめざして・・・・・・。
ゴール前、突き抜けたのはジェンティルドンナ!
4分の3馬身差、2着。
ゴールドシップをハナ差、クビ差ジャスタウェイ、ハナ差エピファネイア、抑え込んだのはトゥザワールドだった!
兄を凌いで、母を超えなければならない。トゥザワールドに課せられた期待の『重い、重い十字架』。いま、解き放たれた気がした。
走ることに喜びを感じたトゥザワールド。
4歳になってオーストラリアに遠征。
3月、ザBMW(G1)、2着。
4月、クイーンエリザベスS、12着。
右前脚に屈腱炎発症。
ターフに戻ることなく引退となった。
優駿スタリオンステーションで種牡馬としての生活を送るトゥザワールド。
走る喜びを知り、G1制覇も遠い現実ではなかったトゥザワールドにとって、早すぎる引退は無念ではある。
それでも種牡馬として、子孫を残せることに光を見い出した。
繁殖牝馬に恵まれなければ辛い種牡馬の世界。
決して恵まれた環境でないかもしれない。
それでも・・・・・・血を繋げれるという現実。
父キングカメハメハ、母トゥザヴィクトリーの血を次世代に。
絶やすことなく繋げれば、それ以上の喜びはないかもしれない。
ターフに羽ばたけ、わが仔よ!
ただ、ただ、それだけが望み。