皐月賞、3コーナー、最後方で並んでいた2頭。
 
大外を捲ったワールドエース。
 
一か八かの内をえぐったゴールドシップ。
 
 
奇跡の『ワープ走行』、皐月賞をもぎとったのはゴールドシップだった。
 
 
クラシック第2弾、すべてのホースマンが勝ちたい・・・・・・と望む最高峰レース、ダービー。
 
 
皐月賞、大外を捲ったワールドエース。最も強いレースをしながらゴールドシップの奇襲に敗れた、2着。
 
ダービーこそは・・・・・・1番人気を背負って、燃えた。
 
 
父ディープインパクト、母マンデラ。
 
ディープインパクト産駒の大物といわれ、デビューから圧倒的な1番人気を背負って走った。
 
新馬戦1着、若駒S2着、きさらぎ賞1着、若葉S1着、唯一、2番人気となった皐月賞は2着。
 
ダービー1番人気。人々は皐月賞馬ゴールドシップよりも、ワールドエースを支持してくれた。
 
『世界のエース』となるべき名をつけられた馬が、『日本のエース』にならずにはおれないッ。
 
 
 
 
人気はワールドエースに譲ったが、皐月賞馬として『2冠』に挑むゴールドシップ。
 
注目されたのは、父ステイゴールド、母父メジロマックイーン、オルフェーヴルと同じニックス。
 
オルフェーヴルに勝るとも劣らない切れ味で、『2冠』、いやいや『3冠』の道を突き進むか?
 
 
スタート後、鞍上・内田博幸が押しても押しても進んで行かないガンコさは、ある意味、オルフェーヴルに共通する、『自我の強さ』を持っていた。
 
そして、いったん火がつくと止められない突進力、破壊力は、まさにオルフェーヴルと匹敵するか?
 
否、?ゴールドシップは、あくまでゴールドシップ。わが道を走るだけ、だった。
 
 
 
 
先行するディープインパクト産駒。
 
同じディープ産駒ワールドエースとは違った顔を見せるディープブリランテ。
 
 
新馬戦、東京スポーツ杯2歳Sを連勝、エリート路線に乗ったが、『気持ちが前向きすぎる』ディープブリランテ。
 
強すぎる闘争心が、好位で落ち着いて状況を見ることを許さない。
 
共同通信杯2着、スプリングS2着、皐月賞3着。直線先頭に立ち、差されて勝ちを逃してきた。
 
課題はただ一つ、魂の落ち着き。
 
 
NHKマイルカップ、マウントシャスタで直線斜行し、シゲルスダチを転倒させ、鞍上・後藤浩輝に大怪我を負わせてしまった岩田康誠。マウントシャスタは失格、岩田は2週間の騎乗停止となった。
 
『大きな迷惑をかけてしまい、馬乗り失格ぐらいなことをやってしまった』、反省と後悔。
 
騎乗停止期間、馬に接することで償いの気持ちを表すしかなかった。
 
ディープブリランテとともに・・・・・・心が通じ合いさえすれば、この馬は変われるッ。
 
 
矢作芳人調教師に頼み込み、騎乗停止の期間をディープブリランテとともに過ごすことにしたのだ。
 
まずは折り合い。気持ちを落ち着かせ、楽しい1日を過ごさせたかった。
 
ただ、つききっりで、気持ちよく調教に向かい、気持ちよく調教を終える。
 
それだけのこと。それだけの毎日。
 
騎手・岩田康誠は原点を取り戻したか? 人馬一体。言うは易く、成し難き言葉。
 
 
 
 
半姉は桜花賞馬マルセリーナ。
 
父がディープインパクトからアグネスタキオンに替わったグランデッツァ。
 
スプリングSに勝ち、1番人気で迎えた皐月賞は5着と敗退。
 
皐月賞、大外枠、後方追走、これまでにない位置取りが敗因か?
 
皐月賞1番人気馬の意地。ダービーはリベンジしかないッ。
 
 
 

ステイゴールド産駒フェノーメノ。
 
ダービー距離2400mの青葉賞を勝ち、ダービー出走権を得た。
 
5戦3勝、美浦・戸田博文厩舎の秘蔵っ仔。
 
満を持して、初G1挑戦!
 
ステイゴールド産駒はゴールドシップだけじゃない。
 
 
 
 
毎日杯を勝って挑戦するヒストリカル。半兄はカンパニー。
 
 
京都新聞杯勝利トーセンホマレボシ。半兄トーセンジョーダン。
 
従兄弟に当たるのがヒストリカル。
 
ともに父ディープインパクト。その血は100%同じだった。
 
 
 
5月27日、ダービー。
 
1.スピルバーグ
2.ヒストリカル
3.ゼロス
4.ジャスタウェイ
5.ベールドインパクト
6.ゴールドシップ
7.コスオオオゾラ
8.ワールドエース
9.エタンダール
10.ディープブリランテ
11.フェノーメノ
12.トリップ
13.クラレント
14.トーセンホマレボシ
15.ブライトライン
16.モンストール
17.グランデッツァ
18.アルフレード
 
 
1番人気ワールドエース、2番人気ゴールドシップ、3番人気ディープブリランテ。
 
4番人気グランデッツァ、5番人気フェノーメノ。
 
 
 
ゲートが開いた。
 
内から出て行ったのはゼロス、真ん中からディープブリランテ、外からトーセンホマレボシ、
 
並んで1コーナーに殺到した。
 
 
2コーナーを回ったところで先頭に立ったのはゼロス。
 
2番手に外から上がったトーセンホマレボシ。
 
3番手、内につけたのはディープブリランテだった。
 
 
鞍上・岩田康誠の手綱はピクリとも動かない。
 
気持ちよくパドックを周回、気持ちよく返し馬に入り、気持ちよくゲートを迎えたディープブリランテ。
 
岩田康誠は確信した。
 
今日のブリランテは・・・・・・今日のブリランテは競馬を楽しんでいる。
 
 
 
1000m59秒1、飛ばすゼロス。
 
3馬身差で続くトーセンホマレボシ。
 
3コーナーでは2頭で他を10馬身離した。
 
 
大きく離れた3番手を行くディープブリランテ。
 
まだ、ここは行くところじゃない。
 
 
わかっていた。
 
 
クラレントが並び、早め5番手につけたグランデッツァが虎視眈々。
 
トリップ、コスモオオゾラ、フェノーメノが続いた。
 
 
中団後方に並んだのがワールドエース、ゴールドシップ。
 
前を見つめながらも、意識は、お互い隣りに並んだライバルだった。
 
 
ワールドエース・福永祐一、ゴールドシップ・内田博幸、
 
互いに、息遣いを測った。
 
 
どちらかが動けば・・・・・・動くッ!
 
 
後方で末脚に賭けるのはジャスタウェイ、ヒストリカル。
 
最後方は、スピルバーグだった。
 
 
 
後続を引き離して直線に入ってきたゼロス、トーセンホマレボシ。
 
差を詰めにかかるディープブリランテ、外からはトリップ、フェノーメノ。
 
 
直線半ば、東京名物の坂を駆け上がった!
 
トーセンホマレボシがゼロスを振り切って先頭に立った時、
 
伸びてきたのがディープブリランテだ!
 
 
岩田康誠のゴーサインに反応した。
 
よく我慢した。ここからは、オレに任せろ!
 
お前の力を、全力で出してやるッ。
 
 
遮二無二追った岩田康誠。
 
ディープブリランテが反応した、伸びた!先頭に立った!
 
 
驚異の粘りを見せるトーセンホマレボシ・C.ウイリアムズ、振り切れない!
 
 
外から伸びてきたのは、フェノーメノだ!
 
青葉賞から乗り替わった蛯名正義、手応えの良さに勝利を確信して追った!
 
 
その後方から、並んで追い込むのはワールドエース!ゴールドシップ!
 
 
やはり、これがダービーか!皐月賞とは違った、前の馬たちの執念。
 
交わし切れないかッ。
 
それでも、
 
見せねば・・・・・・皐月賞、王者たちの切れ味。
 
 
激しく迫った!
 
 
このために、この日のために、お前と過ごした時間。
 
ブリランテ、ムダにはしない。がんばれッ!
 
 
無我夢中で追う岩田康誠。
 
 
トーセンホマレボシを1馬身、振り切った。
 
ワールドエースも、ゴールドシップも、トーセンホマレボシに迫るのが、やっとだった。
 
 
しかし、
 
内外大きく離れた外からフェノーメノの馬体が、視角に現れた!
 
 
そこがゴールだった。
 
 
どっちが勝ったのかわからない、鼻づらをそろえたゴール。
 
 
ゴールを駆け抜け、向こう正面まで流すディープブリランテ、フェノーメノ。
 
写真判定。
 
馬上で結果を待つ岩田、蛯名。
 
 
長い長い時間。
 
 
電光掲示板に灯った、てっぺん『10』の文字。
 
 
岩田は、ディープブリランテのクビにしがみつき、
 
その首に顔を突っ伏して、人目もはばからず泣いた。
 
 
、この光景に、さざ波のように拍手が広がり、やがて大歓声が場内に響き渡った。
 
 
『人馬一体』、言うは易いが、成し難い勝利。
 
 
第79代ダービー馬となったのは、ディープブリランテだ。
 
 
そして、ハナ差の悔しさを胸に、明日を誓うフェノーメノと蛯名正義がいた。
 
 
1着ディープブリランテ
ハナ
2着フェノーメノ
4分の3馬身
3着トーセンホマレボシ
クビ
4着ワールドエース
クビ
5着ゴールドシップ
 
 
ディープブリランテは、その後、イギリス・キングジョージ&クイーンエリザベスSに挑戦、8着と敗れた。10月には屈腱炎を発症、生涯わずか7戦で引退となった。
 
ワールドエースは左前球節炎を発症、その後、屈腱炎を発症し、復帰まで1年8カ月に及ぶこととなった。
 
 
(つづく)