阪神大賞典で先頭を走り、3コーナーで曲がらず直進、大逸走を演じたオルフェーヴル。

 

『3冠馬』、有馬記念で古馬をも撃破した王者のとんでもない走り。

 

さらに驚愕させたのは、

 

競走中止と思われたオルフェーヴルが、再び走り出したことだ。

 

 

コースから外れ、置いてけぼりにされたあとからの驚異のスピードとパワー。

 

4コーナー、直線入り口では先団に追いつき、と直線では勝ってしまうか!の勢いで伸びた。

 

 

内から伸びたギュスターヴクライを半馬身、とらえきれず2着には終わったが、

 

人々の心をとらえたのは、常識を逸脱した3コーナーの逸走ではなく、そこから走り出し、勝ち負けまでに持ち込んだ『怪物ぶり』だった。

 

 

 

そんなオルフェーヴルが天皇賞春に登場。単勝1.3倍、阪神大賞典の走りを見せられた人々は信じて疑わなかった。

 

 

天皇賞春、2週間前に行われた平地競走再審査。阪神大賞典での逸走、そのペナルティー。

 

中央競馬会・採決委員3名・ハンデキャッパー5名による、オルフェーヴルが公正なレースをできるか走行審査が行われた。そこで合格が出ない限り、オルフェーヴルはレースに出ることを許されない。

 

阪神大賞典でのオルフェーヴルの走り。競馬会が重きを置いたのは、あくまでも3コーナーでの逸走だった。

 

 

再審査では『合格』を得たオルフェーヴル。だが、オルフェーヴルの荒ぶる心が解消されたワケではない。

 

これまでも、レース後ラチまで飛んで行き、2度も振り落とされた池添謙一。

 

時として制御不能となる荒ぶる心、それが、レースで出てしまった。

 

何としても抑えなくては・・・・・・、だが、オルフェーヴルの走りの原動力となっているのも、あの『荒ぶる心』。両刃の剣だ。

 

どうする?池添。

 

 

プレッシャー地獄の中にいたのは、騎手・池添謙一なのかもしれない。

 

 

 

 

『オルフェーヴル一色』の天皇賞春。

 

打倒、をめざすのは、ダービー2着、菊花賞2着、オルフェーヴルのまえに苦杯を、なめ続けるウインバリアシオン。

 

国内でディープインパクトを破った唯一の馬ハーツクライを父に持ち、『反骨魂』で己を磨き上げてきた。

 

古馬になって、京都記念6着、日経賞2着。

 

鞍上に武豊を迎え、『一撃』を狙う。

 

 

 

 

5歳にして、天皇賞秋を制覇、ジャパンカップ2着したトーセンジョーダン。

 

有馬記念、初めて対戦したオルフェーヴルの5着。

 

歴戦の古馬として、6歳になり勝るものは経験値。

 

4月、産経大阪杯、ショウナンマイティの3着から天皇賞春へ臨む。

 

 

 

 

アクシデントがあったとはいえ、阪神大賞典でオルフェーヴルの猛追を半馬身防ぎ切ったギュスターヴクライ。

 

父ハーツクライ、母は秋華賞馬ファビラスラフイン。

 

オルフェーヴルと同期だが、クラシック経験はなく阪神大賞典が初重賞制覇だった。

 

勢いを力に初G1挑戦。

 

 

 

 

急激に時代に取り残された『黄金世代』。

 

主力でなくなった有馬記念で2着エイシンフラッシュ、3着トゥザグローリー、4着ルーラーシップと気を吐いたが、5歳になって輝きはさらに失せていった。

 

 

前年の天皇賞春を制したヒルノダムール。

 

凱旋門賞挑戦も10着と敗れ、帰国後の有馬記念では6着。

 

5歳になって、2月・京都記念は3着、阪神大賞典4着。

 

天皇賞春に復活をかけるッ。

 

 

 

『薔薇一族』の王国はどこへ行ったローズキングダム。

 

4歳、天皇賞春11着、宝塚記念4着、天皇賞秋10着、ジャパンカップ9着、有馬記念12着。

 

ブエナビスタと死闘を演じたジャパンカップ。その姿は、走りは、もはやないのか?

 

 

 

 

14番人気、ビートブラック。

 

父はサンデーサイレンス産駒なれど無名、ミスキャスト。24戦5勝も重賞未勝利。G1出走は皐月賞6着、安田記念13着。誇れるものは、なかった。

 

父の母は安田記念、マイルチャンピオンシップを連覇したノースフライト。潜在された良血。

 

 

26戦6勝、重賞未勝利のビートブラック。父ありて、仔あり、か?

 

ならば、『潜在された良血』はわが身に、流れる。

 

 

 

 

8歳になっても走り続ける2010年、天皇賞春を制したジャガーメイル。

 

トウカイトリックは10歳。7年連続天皇賞春挑戦。9,3,7,6,9,5着。

 

 

自己を見失わない『永遠のランナー』。

 

 

 

4月29日、天皇賞春。

 

1.ビートブラック

2.トウカイトリック

3.ナムラクレセント

4.モンテクリスエス

5.ジャガーメイル

6.ゴールデンハインド

7.ユニバーサルバンク

8.ギュスターヴクライ

9.コスモロビン

10.ケイアイドウソジン

11.ウインバリアシオン

12.クレスコグランド

13.フェイトフルウォー

14.ローズキングダム

15.ヒルノダムール

16.トーセンジョーダン

17.トウカイパラダイス

18.オルフェーヴル

 

 

1番人気オルフェーヴル、2番人気ウインバリアシオン、3番人気トーセンジョーダン。

 

4番人気ギュスターヴクライ、5番人気ヒルノダムール。

 

 

阪神大賞典に続き大外枠に入ったオルフェーヴル。

 

前に壁をつくれなかった、と嘆いた池添謙一。

 

はたして・・・・・・。

 

 

ゲートが開いた。

 

オルフェーヴルは、後方だ。

 

 

壁をつくるため、後方に下げた。

 

3200m長丁場。いままで通り、後方でじっくり、動き出すタイミングを待った。

 

 

勢いよく飛び出したのは、1番枠ビートブラック、3番枠ナムラクレセント。

 

さらに、それに被せて先頭を奪ったのは6番枠ゴールデンハインド。

 

 

4番手ユニバーサルバンク、5番手ケイアイドウソジン。

 

 

間隔が開いたバラバラの先行陣。

 

人気薄、展開でかく乱するのか?捨て身の積極策。

 

 

最初の正面スタンド前では、ゴールデンハインド、2馬身、ビートブラック、2馬身、ナムラクレセント、大きく10馬身離れてユニバーサルバンク。

 

前3頭の大逃げが始まっていた。

 

 

大逃げを見る集団の前めにつけたギュスターヴクライ、トーセンジョーダン。

 

 

後方からはウインバリアシオン、ジャガーメイル。

 

後方4頭目にヒルノダムール。

 

その後ろにつけたのが、オルフェーヴルだ。

 

ポツンと1頭、最後方がローズキングダム。

 

 

 

1000m通過60秒。3200mとしてはハイペース。

 

さらに、前はペースを上げた。

 

 

向こう正面では、逃げるゴールデンハインド、2番手ビートブラックが、

 

3番手ナムラクレセントに10馬身の差をつけた。

 

 

さらに、ナムラクレセントから離れて10馬身後ろに、ユニバーサルバンクを先頭とした後続が続いた。

 

 

人気薄の馬が繰り広げる決死の大逃げ。

 

どこで後続が、人気馬が押し上げるか?

 

 

競馬のひとつの醍醐味。

 

その主役は、もちろんオルフェーヴル。

 

 

やがて沸き起こる大喝采に、人々は胸をときめかした!

 

 

だが、

 

場内の人、人、人が、固唾を呑んだ。

 

 

 

3コーナー手前、ビートブラックがゴールデンハインドに並びかけ、

 

2頭でさらに差を開いて行ったのだ!

 

 

3コーナーで、3番手ナムラクレセントに15馬身。

 

途方もない差となった。

 

 

このスピードで来たんだ、前は潰れる。

 

 

後続が詰めにかかった。

 

 

脚色が鈍ったのは、ゴールデンハインドだ。

 

単騎先頭となったビートブラックは、勢いそのままに突っ走った!

 

 

 

体が軽い!

 

これが、これが、父からもらった『潜在能力』か!

 

自分の中に眠る良血か!!

 

 

苦しい、とても。

 

でも、体中に広がる熱い血が、体を動かしてくれる。

 

 

ひたすらゴールをめざしたビートブラック!

 

 

 

後方、懸命に手綱を押すが、前に進んで行かないオルフェーヴル。

 

何かが違う。

 

こんなはずじゃ、こんなはずじゃ・・・・・・。

 

 

絶望感のなかでも懸命に打開しようとする池添謙一。

 

だが、オルフェーヴルは前に進む気配をみせることはなかった。

 

 

両刃の剣。

 

とんでもない行動を起こさないように・・・・・・警戒の思いが、『荒ぶる心』を削ぎ取ってしまったのか?

 

 

 

オルフェーヴルを置き去りに、ビートブラックを追ったトーセンジョーダン!

 

ウインバリアシオン!

 

ジャガーメイル!

 

 

直線半ば、まだ7馬身はあるッ。

 

それでも、

 

懸命に追った。

 

 

 

大波乱!

 

立役者、14番人気、単勝159.6倍、ビートブラック。

 

 

最後は4馬身差。

 

悠々のゴールを切った。

 

 

レコードタイムに0.4秒届かない3分13秒8、好時計。

 

 

鞍上・石橋脩は、何度も何度も右手の拳を上げた。

 

 

1.16.11.5.8、点滅する電光掲示板にオルフェーヴルの18は、なかった。

 

 

1着ビートブラック

4馬身

2着トーセンジョーダン

2馬身

3着ウインバリアシオン

クビ

4着ジャガーメイル

1馬身半

5着ギュスターヴクライ

 

 

(つづく)