夏がすぎ、新たな戦いが始まる。

 

秋のG1シリーズの幕開けはスプリンターズSだ。

 

 

春のスプリントG1・高松宮記念を制したスズカフェニックス。

 

安田記念を1番人気でダイワメジャーの5着に敗れたあと、放牧。

 

秋は中距離路線に臨むプランもあったが、春に勝ったスプリントG1、春秋連覇をめざして登場してきた。

 

 

ぶっつけ本番。体調不安説もあったが、春に見せた強さは人々の胸に深く刻み込まれていた。

 

 

 

 

5歳にして突然、一気に最有力候補に昇りつめたのが、サンアディユだ。

 

馬名は、フランス語Sands Adieu=さよならは言わないで。

 

 

3歳4月デビュー。新馬戦から12戦、この年、5歳4月まではダートを走った。

 

5勝を上げたが重賞・オープンで16着、12着、頭打ち。

 

 

7月、新潟名物直線1000m・アイビスサマーダッシュで初芝レース。

 

13番人気で見事、1着。ナカヤマパラダイス、クーヴェルチュール、アイルラヴァゲインを打ち破った。

 

8月、北九州記念で7着と敗れ、9月、セントウルSでは11番人気と再び人気を下げた。

 

そのセントウルSで、キンシャサノキセキ、アグネスラズベリアイルラヴァゲインを相手に先行逃げ切り、カノヤザクラに5馬身差。

 

1分7秒1、コースレコードで勝利。疑うべくもないスピードで圧倒した。

 

 

 

 

ダービーを制覇した牝馬ウオッカ。そのウオッカに勝った桜花賞馬ダイワスカーレット。

 

牝馬『2強』世代。

 

屈辱でしかなかったのが、アストンマーチャンだ。

 

 

2歳時、新馬戦2着のあと、未勝利戦、小倉2歳S、ファンタジーSと、2重賞勝ちを含め3連勝。

 

ファンタジーSでは鞍上に武豊を迎え、2着イクスキューズに5馬身差。

 

圧倒したスピードで阪神ジュベナイルフィリーズは1番人気となった。

 

だが、ウオッカにクビ差敗れた、2着。

 

 

わずかクビ差・・・・・・、大きかったクビ差。

 

 

3歳になり、フィリーズレビューは単勝1.1倍で圧勝するも、桜花賞は7着。

 

ダイワスカーレットに敗れ、ウオッカに先着され、ゴール前はドンドン抜かれていった。

 

癒えぬ傷。

 

クラシック戦線から外れ、短距離に進路変更も北九州記念6着。

 

 

父は朝日杯3歳S(現・朝日杯フューチュリティS)を勝って、3年半、安田記念で復活Ⅴを果たしたアドマイヤコジーン。

 

決して諦めなかった父の仔。わずかな躓きで、悲しみに明け暮れている場合じゃない。

 

このままじゃ、ウオッカに笑われる。

 

いや、相手にもされない。

 

 

 

 

京成杯オータムハンデを勝ち挑むキングストレイル。伯母はシンコウラブリイ。

 

NHKマイルカップ3着の実績を持ち、1200mスプリント戦では上位を堅持するアイルラヴァゲイン。

 

キーンランドカップを勝った3歳牝馬クーヴェルチュール。父は短距離王ブラックホーク。

 

高松宮記念、2着ペールギュント、3着プリサイスマシーン。

 

 

 

予断を許さない1200m電撃戦。

 

戸惑い、躊躇、即、負けにつながる。

 

 

 

9月30日、スプリンターズS。

 

1.アイルラヴァゲイン

2.プリサイスマシーン

3.アグネスラズベリ

4.オレハマッテルゼ

5.タマモホットプレイ

6.サンアディユ

7.アストンマーチャン

8.エムオーウイナー

9.アンバージャック

10.コイウタ

11.ペールギュント

12.ローエングリン

13.メイショウボーラー

14.クーヴェルチュール

15.スズカフェニックス

16.キングストレイル

 

 

1番人気サンアデユ、2番人気スズカフェニックス、3番人気アストンマーチャン。

 

4番人気キングストレイル、5番人気プリサイスマシーン。

 

 

 

逃げ・先行馬がそろった。

 

何がハナを切るか? 注目された電撃戦。

 

馬場は雨、不良馬場だった。

 

 

最高のスタートを切った12番枠ローエングリンだったが、

 

内から一気に交わして行ったのは、3歳牝馬アストンマーチャンだった。

 

 

アストンマーチャンにとって、初めての逃げ。

 

思い切って行かしたのは関東のベテラン、『逃げの仲舘』といわれた仲舘英二。

 

 

初めての不良馬場でハナを切った。2番手以下を3馬身離した。

 

 

追いかけるエムオーウイナー、サンアディユ、オレハマッテルゼ、アイルラヴァゲイン、一団で続いた。

 

下げたローエングリン、コイウタが好位を陣取った。

 

 

ごった返した中団にプリサイスマシーン、キングストレイル、クーヴェルチュール。

 

 

後方から行ったスズカフェニックス、ペールギュント。

 

 

馬群から置かれたアグネスラズベリ、最後方がメイショウボーラーだった。

 

 

不良馬場、3ハロン33秒1は速い。

 

 

直線、潰れようが、決めたからには逃げる。

 

 

アストンマーチャンの逃げに、迷いはなかった。

 

 

 

内から2番手に上がったアイルラヴァゲイン。

 

3番手オレハマッテルゼ、サンアディユ。

 

 

隊列が崩れた2番手グループをよそに、

 

ただ1頭で直線に入ったアストンマーチャン。

 

 

4馬身、5馬身、さらに差を開いた。

 

独走か?

 

 

追いかけるのはアイルラヴァゲイン!

 

 

最内から脚を伸ばすプリサイスマシーン。

 

 

外からは、サンアディユだ!

 

 

キングストレイユ、ローエングリンも足を伸ばす!

 

後方から突っ込むのはタマモホットプレイ!

 

 

スズカフェニックスは、伸びない!

 

 

 

ゴールが見えたアストンマーチャン。

 

やはり、辛かった。

 

 

軽快だったはずの脚が・・・・・・回転が鈍った。

 

 

驚異のピッチ走法。

 

逃げに逃げた、回転が止まれば、ただの馬。

 

 

動かすんだ、脚を。

 

ゴールまで、あと少し。

 

がんばれッ、わたし!

 

 

 

懸命に逃げるアストンマーチャン。

 

 

アイルラヴァゲインが、迫った。

 

つかみかけたチャンス、逃すものか!

 

 

サンアディユ、1番人気の誇り。

 

G1で、一気に得た人気。

 

人気に・・・・・・、人気に応えたいッ。

 

 

最後の力でアイルラヴァゲインに並んだ。

 

目前に迫ったアストンマーチャンに喰らいつく!

 

 

そこが、ゴールだった。

 

 

後ろから迫った、恐怖。蹄の音、音、音・・・・・・。

 

防ぎ切ったアストンマーチャン。

 

 

初の女王、『スプリント女王』となった。

 

 

1着アストンマーチャン

4分の3馬身

2着サンアディユ

クビ

3着アイルラヴァゲイン

アタマ

4着キングストレイユ

1馬身

5着タマモホットプレイ

 

 

アストンマーチャンは、その後、スワンS14着。

 

2008年2月、シルクロードS10着。3月、突然体調を崩し高松宮記念を回避。ⅹ大腸炎を発症、4月21日、急性心不全で帰らぬ馬となった。

 

 

そして、2着となったサンアディユは、11月、京阪杯を勝利。

 

2008年、3月、高松宮記念の前哨戦、中山・オーシャンSを1.7倍、圧倒的1番人気で出走。

 

隣のアイルラヴァゲインがゲートで暴れ後ろ扉を蹴ってしまい、その音に驚いたサンアディユが暴れてしまった。発走態勢が整わないままにゲートが開かれてしまい、大きく出遅れたサンアディユは、なす術もなく16着大敗となった。

 

レース後、その日のうちに帰路に就いたサンアディユ。日が変わった午前0時すぎに栗東の厩舎に戻った。

 

翌朝、スタッフが発見したのは、馬房で倒れ込んだサンアディユの姿だった。

 

急性心不全。誰も見ぬ間に逝ったサンアディユ。

 

その原因はわからない。

 

 

Sands Adieu=さよならは言わないで。

 

さよならも言えぬまま、サンアディユは生涯を閉じた。

 

 

 

第41回スプリンターズSを飾った牝馬、アストンマーチャン、サンアディユ。

 

もう2度と輝くことなく、また、母として仔に夢を託すことも叶わず・・・・・・心臓の動きは止まってしまった。

 

 

 

(つづく)