秋のマイル王決定戦、マイルチャンピオンシップ。


春、安田記念を制したブラックホークは骨膜炎を発症、7月引退した。

前年のマイルチャンピオンシップの覇者アグネスデジタルは天皇賞秋へ挑戦、優勝。

混沌の中の戦いとなった。




伯父にマイルチャンピオンシップを2勝したダイタクヘリオスがいるダイタクリーヴァ。

5戦4勝、2着1回。クラシック最有力候補として皐月賞に出走、エアシャカールにクビ差敗れた2着。

雪辱を期したダービーは12着、惨敗。距離的にクラシックは諦めた。


伯父ダイタクヘリオス、その血を信じマイル王をめざすこととなった。

前年、マイルチャンピオンシップ、つかみかけたマイル王・・・・・・アグネスデジタルに差された、2着。

鳴尾記念、京都金杯を連勝。中山記念3着、安田記念をめざすが無念の骨折・休養。


10月、富士S・2着で復帰。

めざすものは、マイル王しかない!




新馬戦、2着、1着。1勝馬で臨んだ朝日杯3歳SでマイルG1を制したエイシンプレストン。

アーリントンカップ、ニュージーランドトロフィーを連覇しながらNHKマイルカップは骨折で出走ならず。

歯車が狂った、か? 半年の休養がエイシンプレストンにもたらしたもの。

6,5,14,12,5,2,6,10着。勝つことが難しくなった。

このままでは終われない。


超エリート外国産馬が勝つために、重賞でもないオープン特別に出走。米子Sを勝った。

ローカル重賞・北九州記念を勝った。

関屋記念3着のあと、G2・毎日王冠を勝ち、やっと取り戻した自信。


マイル王を、勝ち取るッ。




皐月賞、アグネスタキオンの2着。ダービー、ジャングルポケットの2着。菊花賞、マンハッタンカフェの5着。

勝つことはできなかったが、クラシックの中心で走ってきたダンツフレーム。

マイルの距離に、G1勝利を求めた。

距離適性よりも、欲しかったG1勝利。




高松宮記念、スプリンターズS、春秋スプリントG1を連覇したトロットスター。

スプリント王者がめざす野望。

マイルも制し、短距離王となる!




父カーリアンはイギリス・アイルランドで2度リーディングサイアーになった名種牡馬。日本ではシンコウラブリイ、エルウェーウィン、フサイチコンコルド、ビワハイジを出す。

母エンブラは英最優秀2歳牝馬となった良血。

アイルランドからやってきた良血外国産馬ゼンノエルシドには、大いなる期待感しかなかった。


脚部不安を抱え、出せぬ実力。条件馬を脱出できぬままに4歳夏を迎えた。

札幌・摩周湖特別(1000万下)で久々の勝利。

秋、京成杯オータムハンデ、条件馬として挑戦。1分31秒5、2着クリスザグレイヴに4馬身差。当時の日本レコードで勝利した。


ようやく、目の前に光りが差した。

1番人気で出走したスプリンターズS。甘くはなかった。

馬群の中で、もがき、苦しみ、10着敗退。


目の前の光りが、閉ざされた。


闇の扉をぶち壊すのは自分自身だと、ゼンノエルシドは感じているのだろうか?


マイルチャンピオンシップへ挑戦。鞍上は、短期免許で来日のオリビエ・ペリエ。




11月18日、マイルチャンピオンシップ。

1.ダンツフレーム
2.メイショウオウドウ
3.ビハインドザマスク
4.イーグルカフェ
5.ダービーレグノ
6.コンタクト
7.ロサード
8.タイキトレジャー
9.エイシンプレストン
10.ゴッドオブチャンス
11.ゴールドティアラ
12.クリスザグレイヴ
13.ダイタクリーヴァ
14.ゼンノエルシド
15.リキアイタイカン
16.ムーンライトタンゴ
17.トロットスター
18.ジョウテンブレーヴ


1番人気ダイタクリーヴァ、2番人気エイシンプレストン、3番人気トロットスター。

4番人気ゼンノエルシド、5番人気ダンツフレーム。



7歳となった快速、クリスザグレイヴがハナを切った。

2番手はゼンノエルシド。馬群に包まれた前走を見ていた鞍上ペリエ。出していった。


3番手ゴッドオブチャンス、タイキトレジャーが続き、外からジョウテンブレーヴが果敢に上がってきた。


中団、内々を行くダンツフレーム。

トロットスター、エイシンプレストンが外に並んだ。


後方から行くダイタクリーヴァ、内にNHKマイルカップ覇者、勲章を持つイーグルカフェだ。

最後方から行くのは、『薔薇一族』ロサード。



軽快に行くクリスザブレイヴ。

追い上げていこうとするゴドオブチャンス。ジョウテンブレーヴも外から攻めようとする。

被せられ気味になったのは、2番手センノエルシドだ。


ここで下がるわけにはいかないッ。


なぜか、そう思った・・・・・・ゼンノエルシド。


ゴッドオブチャンスに被せられ気味の中で、踏ん張って、直線に入った。



直線、視界が開けた時に、遠く、遠くに見えたゴール。

外、ゴッドオブチャンスとともに、先頭に立っていた!

内から伸びてきたのはイーグルカフェ。


抜けた3頭の後ろからは、ズラァーッと横に開いた馬群。

津波にように押し寄せてくる蹄の音が響く。


ゴールまで、保て! このままだぁぁあああーッ。


懸命にムチを振るう。

イーグルカフェ、田中勝春。

ゼンノエルシド、オリビエ・ペリエ。

ゴッドオブチャンス、後藤浩輝。



差し込んでくるタイキトレジャー、ダンツフレーム、ビハインドザマスク、エイシンプレストン・・・・・・。

大きな波が押し寄せた。


呑み込んだゴッドオブチャンス、イーグルカフェ!


さらに迫る。前はゼンノエルシド!


エイシンプレストンが、タイキトレジャーが、

大きな波から、さらに弾けてゼンノエルシドに迫った!



ダメだ!

ここで追いつかれちゃ。何のためにがんばったッ。


自らを叱咤したゼンノエルシド。

自分でこじ開けた闇の扉。


あの光りの中に、飛び込むのはオレだッ!


渾身の力でターフを蹴った。



輝く光りの中に・・・・・・飛び込んだ。



マイル王、ゼンノエルシド誕生。


1着ゼンノエルシド

2着エイシンプレストン

3着タイキトレジャー

4着ビハインドザマスク

5着ダンツフレーム


(つづく)