桜花賞馬テイエムオーシャン。
『2冠』確実視されていたオークス。
初対戦となるレディパステル、ローズバドに差し切られ、ゴール前、置き去りにされた。
悪夢のような2馬身半差。
『3冠』の夢は絶たれ、秋華賞に臨む。
そこにはリベンジしかなかった。
オークスから1戦もはさまず、ぶっつけで出走することになったテイエムオーシャン。
過去オークスから直行で秋華賞を勝った馬はいない。遡って前身のエリザベス女王杯もそうだった。
過去は過去。だが、テイエムオーシャンにとって厳しいデータであることは間違いない。
厳しくとも突き進む。テイエムオーシャンには『女王』としての誇りがあった。
オークス制覇したレディパステル。
初重賞勝ちがG1という快挙。それまで6戦2勝、2着3回、3着1回。まだ底を見せていない馬だった。
短期免許で来日していたケント・デザーモによって素質を開花させたか?
9月、紫苑Sを鞍上・蛯名正義で順当勝ち、絶好調で秋華賞へ臨む。
オークスはクビ差の2着、『薔薇一族』のローズバド。
秋華賞トライアル・ローズSは自慢の末脚で追い込んだが、同じサンデーサイレンス産駒ダイヤモンドビコーをとらえきれずに2着。
勝ちきれない歯がゆさは残るが、全9戦中6度の最速の上がりを見せた切れ味。
その切れ味を武器にG1を獲る。
鞍上・横山典弘はローズバドの豪脚に思いを込めた。
桜花賞2着、オークス6着、ムーンライトタンゴ。
父はサンデーサイレンスの良血産駒ダンスインザダーク。
後方一気の差し脚はローズバドに勝るとも劣らない。
メジロライアンの牝馬産駒ドリームカムカム。
未勝利勝ちに6戦を要した。13戦3勝、まだ条件馬だった。紫苑Sでレディパステルの2着、がんばった。
秋華賞出走権を得て、西下。
桜花賞3着もオークス13着と崩れたダイワルージュ。
桜花賞7着、オークス4着サクセスストレイン。
叔母にエアグルーヴがいるアドマイヤハッピー。半姉はエガオヲミセテだ。
10月14日、秋華賞。
1.アドマイヤハッピー
2.テイエムオーシャン
3.ノブレスオブリッジ
4.タイムフェアレディ
5.ムーンライトタンゴ
6.レディパステル
7.シャイニンググラス
8.タイヨーキャプテン
9.ローズバド
10.サクセスストレイン
11.ウィーレジスタンス
12.シルキードルチェ
13.ダイワルージュ
14.ドリームカムカム
15.ハローサンライズ
16.ピンクパピヨン
17.フローラルグリーン
18.ショナンバーキン
1番人気テイエムオーシャン、2番人気ローズバド、3番人気レディパステル。
4番人気ムーンライトタンゴ、5番人気ドリームカムカム。
ナリタトップロードの半妹、フローラルグリーンの先行でレースは始まった。
2番手はハローサンライズ。母スカーレットローズはスカーレットブーケの全姉。ダイワルージュとは従妹関係。
スカーレットブーケからはダイワルージュ、ダイワメジャー、ダイワスカーレット。スカーレットローズからはスカーレットレディ、ハローサンライズが出て、スカーレットレデイからはサカラート、ヴァーミリアン、キングスエンブレム、ソリタリーキングとダートの強豪兄弟が現れることとなる。
後年へ、芝・ダートに華麗な血を繋ぐこととなる『スカーレット一族』の2頭が、いま、合いまみえている。
一方のダイワルージュは6番手、好位を追走。
リベンジにかけるテイエムオーシャンは先行2頭を見て3番手。
後ろにいるだろうレディパステル、ローズバドを待った。
いつもより早め、中団につけたのはムーンライトタンゴ。
アドマイヤハッピー、ドリームカムカムが前後に並んだ。
後方5,6頭目から、じっくり行くのはサクセスストレイン、レディパステル。
最後方から行くのはローズバドだ。
鞍上・横山典弘、ローズバドの末脚をどこで爆発させるか?
届くのか?
1000m・58秒4で通過。
ハイペースのなかを突き進むフローラルグリーン。
4,5馬身離れて、ハローサンライズ。
さらに4,5馬身離れてテイエムオーシャン。
鞍上・本田優はどうする?
オークスでは距離を考えて、直線半ばまで追い出すのを我慢した。裏目に出て、レディパステル、ローズバドの切れ味に屈した。
『直線すぐに抜け出して、突き放していれば』、非難された。
オーシャンを『女王』の座に再び・・・・・・。
それは本田の胸の中に、強く強くあった。
3,4コーナー勝負所。
バラバラだった前3頭の間隔が一気に縮まり、
中団からムーンライトタンゴが押し上げた!
レディパステルが、サクセスストレインが、外を追い上げた!
激流の中で、先頭に立つ勢いのテイエムオーシャン!
最後方にいたローズバド。
横山典弘は内に進路を取った。
入り乱れる馬群を前に、突き抜けるというのかッ!
馬群の壁に進路を絶たれては、お終いだ。
力尽きたフローラルグリーン。
先頭に立ったハローサンライズ。
被せるように先頭に立ったのは、テイエムオーシャンだ!
あとは、ゴールへ真一文字。
後続よ、来るなら来いッ!
テイエムオーシャン・本田優、信じた道をまっしぐら。
ムーンライトタンゴの伸びが止まり、
代わって、外から追い上げてきたレディパステル、サクセスストレイン!
だが、テイエムオーシャンの勢いには追いつかない!
強い、『女王』。
その時だ!
外を意識していた本田優の目の右隅に、疾風の影が現れた。
ローズバドだッ!
最内、馬群を切り裂いて飛んできたローズバド・横山典弘。
テイエムオーシャンに鋭く迫った!
驚いた、本田優。
だが、焦りはない。
俺は、オーシャンを信じている!
最後の力、『女王』の力を振り絞って、テイエムオーシャンは駆け抜けた。
1着テイエムオーシャン
2着ローズバド
3着レディパステル
4着サクセスストレイン
5着ショウナンバーキン
8戦6勝、3着2回。桜花賞・秋華賞2冠制覇、『女王』テイエムオーシャン。
『薔薇一族』ローズバドは、オークス・秋華賞連続2着。果てしなき『悲願』への始まりだった。
(つづく)