有馬記念。
ラストランとなるスペシャルウィーク。
ダービー5馬身差圧勝。皐月賞3着、菊花賞2着、勝負弱さを見せた4歳。
古馬になって天皇賞春秋連覇。名実ともに王者となった。
ジャパンカップで凱旋門賞馬モンジューを破り、優勝。
引退。永遠に勝つことができなくなったエルコンドルパサー。
凱旋門賞2着馬に見せた、せめてもの思い。
そして、ラストラン。
そこにはグラスワンダーがいた。スペシャルウィークにとって、勝たなくてはいけないもう1頭の外国産馬。生まれた境遇は違ったが、同じ育成場で育った幼なじみ。
遠きライバルとの初対戦、宝塚記念で敗れた。3馬身差の屈辱。
有馬記念、すべてをぶつける。スペシャルウィーク・・・・・・。
3歳時、4連勝で朝日杯3歳Sを制したころは、マルゼンスキーを超えるといわれた『超新星』グラスワンダー。
4歳、骨折休養中に現れたエルコンドルパサー。5戦全勝でNHKマイルカップを制し外国産馬の頂点となり、その存在はグラスワンダーに取って代わるものとなった。
唯一の対戦はサイレンススズカのスピードに翻弄された毎日王冠。エルコンドルパサー2着、グラスワンダーは5着、初めての敗戦は惨敗だった。
ジャパンカップを制したエルコンドルパサー、アルゼンチン共和国杯6着グラスワンダー。失った『超新星』の座。
意地の走り・・・・・・有馬記念で復活。
京王杯スプリングカップ1着、安田記念2着、宝塚記念1着、毎日王冠1着。戦績的にはほぼ完璧となった古馬グラスワンダー。
実のところ、体調悪化と出走の繰り返し。3歳時の『超新星』グラスワンダーは取り戻せていない。
ただ、ただ、エルコンドルパサーと再戦するために、恥ずかしくない好敵手であるために・・・・・・それだけが支えた。負けられない走り。
エルコンドルパサーの引退。その喪失感はスペシャルウィークよりも強かった。
そんなグラスワンダーに、全力で思いをぶつけるスペシャルウィーク。
その思いを受け止める。
そこにしか、グラスワンダーの走る理由はなかった。
有馬記念、スペシャルウィークに勝つために・・・・・・全力で走る。
みんなの夢が走る有馬記念。
勝ちたいのは、2頭だけではない。
燃える前年有馬記念2着馬。メジロライアンの仔、天皇賞馬メジロブライト。
秋、重賞連勝で開花した『皇帝』シンボリルドルフの仔、ツルマルツヨシ。
G1・2着4回。好走と凡走の繰り返し、時に『最強』の重賞未勝利馬、23連敗中ステイゴールド。
前年、桜花賞・秋華賞2冠。古馬牝馬ファレノプシス。
エリザベス女王杯でメジロドーベルの2着。4歳牝馬、フサイチエアデール。
4歳クラシックでしのぎを削った皐月賞馬テイエムオペラオー、菊花賞馬ナリタトップロード。
世代トップクラスの力を古馬にぶつける!
12月26日、有馬記念。
1.ナリタトップロード
2.スエヒロコマンダー
3.スペシャルウィーク
4.ユウセイトップラン
5.ステイゴールド
6.シンボリインディ
7.グラスワンダー
8.インターフラッグ 発走除外
9.フサイチエアデール
10.ツルマルツヨシ
11.テイエムオペラオー
12.ファレノプシス
13.メジロブライト
14.ゴーイングスズカ
15.ダイワオーシュウ
1番人気グラスワンダー、2番人気スペシャルウィーク、3番人気メジロブライト。
4番人気ナリタトップロード、5番人気テイエムオペラオー。
単勝2.8倍・グラスワンダー、3.0倍スペシャルウィーク。
大歓声の中、ゲートインが行われ、ゲートが開いた瞬間、飛び出したゴーイングスズカ。ダイワオーシュウが2番手。外枠勢が行った。
3番手、内々を通ってナリタトップロード。首を上げ、かかりぎみだ。
大丈夫か?渡辺薫彦。
NHKマイルカップ制覇以来、7カ月ぶりのシンボリインディが行く。
テイエムオペラオー、フサイチエアデール。
ツルマルツヨシ、ステイゴールドが中団。
グラスワンダーは後方4頭目。
メジロブライト、ファレノプシスが続き、
最後方につけた、
スペシャルウィーク。
武豊が、つけた最後方。
宝塚記念では、グラスワンダー・的場均に差された。
2度は差されない!
グラスワンダーを前に見た。
1000m通過65秒2、超スローペース。
後方2頭。グラスワンダー、スペシャルウィーク。
互いに牽制。
いいのかッ?
動かない。
グラスワンダー、
スペシャルウィーク。
ツルマルツヨシ・藤田伸二が、テエムオペラオー・和田竜二が、メジロブライト・河内洋が、焦りの色を見せた。
3コーナー。
ついに・・・・・・動いた、動いた、グラスワンダー。
一気に先団めがけて上がる。
待ってました!
上がってきたグラスワンダーに、内から喰らいついたツルマルツヨシ。
スペシャルウィークが、武豊が、合わせて動いた。
狙い定めたように、グラスワンダーを追いかけた!
堰を切ったように流れる馬群。
主導権を取ったグラスワンダーが、
ゴーイングスズカ、ツルマルツヨシと並んで、直線を向いた。
抜け出しかけるツルマルツヨシ。
並んで、後ろを待つグラスワンダー。
的場均が、待った。まだ見えぬ敵、後方のスペシャルウィークを。
後方から、やって来た。
感じる!凄まじい圧力。
スペシャルウィークだッ!
武豊のムチが唸った。
グラスワンダー・的場均、すべての力を爆発させる時。
真一文字に伸びた!
ツルマルツヨシを交わして、先頭に立ったグラスワンダー。
狙い定めたスペシャルウィーク。
馬群を割って、テイエムオペラオーが伸びてきた。
若い力が炸裂した。
だが、いち早く、
グラスワンダーが、
スペシャルウィークが、
ゴールを駆け抜けた。
馬体が重なったまま、駆け抜けたッ!
勝ったのは、
どっちだ?!
『負けた』と感じたのは的場均だった。
スペシャルウィーク鞍上・武豊は『勝った』と思った。ウイニングランでガッツポーズを2度3度、繰り返した。
鞍上の明暗。
場内では、スペシャルウィーク・ファンの大歓声がこだました。
しばらくして、着順掲示板に灯った馬番は『7』だった。
馬番7番、グラスワンダー。
ハナ差、
グラスワンダーが勝っていた。
スペシャルウィーク、ラストランの野望は崩れ、
『超新星』グラスワンダーの有馬記念連覇となった。
1着グラスワンダー
2着スペシャルウィーク
3着テイエムオペラオー
4着ツルマルツヨシ
5着メジロブライト
(つづく)