父メジロライアンに追いつき、追い越せ!
どんなに馬鹿にされても、きっとある父の力。父からもらった力。
それが、顔も知らぬ父との血の約束。
がんばった、がんばったメジロブライト。クラシック『3冠』最後の菊花賞に挑む。
皐月賞・ダービー『2冠馬』サニーブライアンが消えた菊花賞。
菊花賞制覇に燃える有力馬の筆頭はメジロブライトではなく、ダービー2着馬シルクジャスティスだった。
11,8,9,5,2,3,1着、未勝利勝ちまで7戦もかかったシルクジャスティスだったが、春に突然、開花。3月、未勝利戦を勝つや、毎日杯3着、若草S1着、京都4歳特別1着。ようやく間に合ったダービーで2着に突っ込んだ。
皐月賞2着シルクライトニングとは同馬主で従兄弟同士。同厩舎のエリモダンディーとは奇妙な関係にある。
400㌔そこそこの小柄なエリモダンディーは牧場時代からいじめられっ仔。栗東に入厩しても他馬によく威嚇されて小さくなっていた。すると、シルクジャスティスが駆けより、かばってやていた。
同い年ながらエリモダンディーはシルクジャスティスを慕うようになり、厩舎は2頭を調教パートナーにしたという。同じ父ブライアンズタイム、通じ合うものがあったのか?
ジャスティス=正義。気ムラなキカン坊、シルクジャスティスの中にあった男気、正義の心が目覚めたのか?
そして、エリモダンディーとの調教でシルクジャスティスのさぼりグセが消え、真剣に走るようになったという。
秋、神戸新聞杯では8着と敗れたシルクジャスティスだったが、続く古馬との対戦、京都大賞典でダンスパートナーを破り、勝利。
ダービー4着エリモダンディーとともに菊花賞に臨む。
菊花賞トライアルの神戸新聞杯、京都新聞杯、両レースを制覇。
最も勢いに乗るのがマチカネフクキタルだ。
春はプリンシパルS2着に入り、ダービー出走権を得たが好位から伸びず7着。
ここまで強くなる、予感はなかった。
5代母がコダマ、シンツバメを産んだ名牝シラオキ。
ヒデハヤテ、ハシコトブキ、サンエイソロン、シヨノロマン、シスタートウショウ・・・・・・そしてのちにはウオッカも輩出する名門シラオキ系。
マチカネフクキタルの血の根底には、はるかな名牝の血が流れていた。
皐月賞2着馬シルクライトニング。ダービーは発走除外。同馬主、従兄弟のシルクジャスティスが2着に入った。
走れなかったダービー。
無念さを、菊にぶつける。
サニーブライアンが抜けて関西馬優勢となった情勢の中で、秘かに東の期待を集めたダイワオーシュウ。
5月デビューの遅咲きは、未勝利戦から3連勝。セントライト記念2着して5戦目で、いざ菊の舞台へ。
11月2日、菊花賞。
1.ステイゴールド
2.トウジントルネード
3.テイエムトップダン
4.マチカネフクキタル
5.ノーザンウェー
6.パルスビート
7.ダイワオーシュウ
8.ヒダカブライアン
9.エリモダンディー
10.ルールファスト
11.ショウナンアクティ
12.ニケスプリット
13.サードサンスリル
14.メジロブライト
15.トキオエクセレント
16.シルクジャスティス
17.シルクライトニング
18.シャコーテスコ
1番人気シルクジャスティス、2番人気メジロブライト、3番人気マチカネフクキタル。
4番人気シルクライトニング、5番人気エリモダンディー。
菊3000m、未知の距離に挑む4歳若駒。
1枠2番、トウジントルネードが最初に飛び出した。
テイエムトップダン、ノーザンウェー。内から行くマチカネフクキタル。
父クリスタルグリッターズから、距離3000mを懸念されたマチカネフクキタル。
神戸新聞杯から手綱を取った南井克巳は、ひたすら経済コースを選択した。
ダイワオーシュウ、パルスビート、ステイゴールドが続く。
オルフェーヴル、ゴールドシップの父で知られるステイゴールド。まだ条件馬の身。
京都新聞杯4着と健闘、初のクラシックへ臨んだ。期待されたサンデーサイレンス産駒の1頭だったが、まだ開花以前。気の荒々しさだけが走る馬だった。
中団につけるトキオエクセレント、シルクライトニング。
中団後ろ、13番手につけたのがメジロブライトだった。
その後ろを行くのがシルクジャスティス、そして、エリモダンディーだった。
最初の正面スタンド前、トウジントルネードを交わして先頭に躍り出たのがテイエムトップダン。
2番手以下を5馬身離して、ハナを切る。
勝ちたい・・・・・・思いが騎手を慎重にさせた。
シルクジャスティス・藤田伸二、メジロブライト・松永幹夫、マチカネフクキタル・南井克巳。
動かぬまま、動けぬまま。
淡々と流れ、3コーナー。積極的に逃げるテイエムトップダンに迫って行ったのはダイワオウシュウ、ノーザンウェーだった。
4コーナーへ。動いたのはメジロブライトだ!
外々を通り、グイグイ押し上げた。後方から届かないレースの繰り返し。
ここは、勝ち切るッ!
メジロブライトが点火した。
直線入り口。逃げるテイエムトップダン、襲いかかるダイワオウシュウ、ノーザンウェー。
ステイゴールド、パルスビートも首をのぞかせる。その大外、
姿を見せたのは、メジロブライトだ。
後方から、エリモダンディーも上がってくる。
大歓声。興奮の坩堝(るつぼ)。
一気に決めたいメジロブライトが先頭に躍り出る勢い。
その時、
内の馬群が盛り返した。
ダイワオウシュウだ!外に呑み込まれまいと、脚を伸ばした。
さらに、馬群に埋没していた馬が、馬群を割った!
マチカネフクキタルだッ!
辛抱に辛抱を重ねた南井が、手綱を解き放った。
アッという間にダイワオウシュウを交わし去ったマチカネフクキタルが、
勝利をめざして、まっしぐら。
出し抜けを喰らった。それでも追い上げるダイワオウシュウ。
メジロブライトも、諦めるワケにはいかない。
追い詰めなければ、追い越さなければ、がんばれ、オレ。がんばるんだッ!
後ろからやってきた、トキオエクセレントとともに最後の差し脚で迫った。
さらに後方から、シルクジャスティス!
1馬身、ハナ、クビ、1馬身。
大接戦の勝負。
菊の大勝利は、マチカネフクキタルだった。
1着マチカネフクキタル
2着ダイワオウシュウ
3着メジロブライト
4着トキオエクセレント
5着シルクジャスティス
(つづく)