11番人気。皐月賞馬となったサニーブライアン。

大外18番ピンク帽はスタート100mで行き脚がつくや、一気に内へ切れ込んで先頭を奪った。


注目されない馬サニーブライアン。

忘れられていた騎手・大西直宏。


宣言通りの逃げ。


メジロブライト・松永幹夫も、ランニングゲイル・武豊も、ヒダカブライアン・岡部幸雄も、誰も相手にしなかった。有力馬は後方で互いに牽制し合っていた。


一度はテイエムキングオーにハナを譲ったものの、3コーナー手前で再び先頭に立つと一気に2番手以下を引き離し、直線は耐えに耐え、17頭の追撃を振り切った。


日本中の競馬ファンに衝撃を与えたサニーブライアンの勝利。




近づくダービー。クラシック最高峰レース。

サニーブライアンへの称賛は日に日に薄れ、巷のダービー談話の主役はメジロブライト、ランニングゲイルに戻った。

人気薄の逃げ。展開に恵まれての勝利。サニーブライアンの皐月賞勝利はフロック視されたのだ。




皐月賞1番人気4着、メジロブライト。7戦3勝、2着3回。7戦すべて最速の上がり。

父メジロライアンを彷彿させる末脚は、何よりもの魅力となったのか?


同じメジロライアンの仔メジロドーベルがオークスを勝った。桜花賞2着の悔しさを晴らした。

ダービーはメジロブライトの番。人気に追い風が吹いたか?




武豊が惚れ込んだランニングゲイル。

弥生賞で見せた大捲り、3馬身差の圧勝劇は秀逸だった。

『今年はサンデーサイレンスでも、トニービンでもない。ランニングフリーですよ』武豊が言い放ったひと言。

『走る労働者』ランニングフリーの数少ない産駒から飛び出した逸材、ランニングゲイル。

武豊の言葉を証明するかのような弥生賞の勝利。


皐月賞は展開に泣いた6着。

ダービー前に、プリンシパルSに出走。後方Kら追い込むも、サイレンススズカ、マチカネフクキタルにクビ、クビ差の3着。


距離延びて、ダービーこそ差し切る?




新しい顔も続々登場した。


未勝利脱出に7戦も要したシルクジャスティス。

勝ち上がるや、毎日杯(G3)3着、若草S(オープン)1着、京都4歳特別(G3)1着。

ダービー制覇へ、関西から乗り込んできた。


シルクジャスティスには同期同馬主、しかも、いとこである皐月賞2着馬シルクライトニングがいる。

さらには、同厩舎・大久保正陽厩舎に同じ父ブライアンズタイムのエリモダンディーがいる。

牡馬で400㌔そこそこというエリモダンディーはいじめられっ仔。栗東にやって来ていつもかばっていたのがシルクジャスティスだという。妙な関係がお互いの調教パートナーとなり、エリモダンディーはいつもシルクジャスティスの後を追っていた。

皐月賞は3勝を上げていたエリモダンディーのみが出走、7着だった。そして、2頭でダービーへ。一番喜んでいたのはエリモダンディーかも。




後に日本一の逃げ馬となるサイレンススズカ。

この年代、不振なサンデーサイレンス産駒のなかにあって、素質の片鱗を見せる馬だった。


4戦3勝。弥生賞のみ10馬身出遅れる不利で8着惨敗。プリンシパルSを逃げずに、先行差し切りで制し、『おKれてきたサンデーの大物』として注目を浴びた。




距離2400m、青葉賞を勝って挑むのがトキオエクセレント。

社台が購入した種牡馬、ジャパンカップを制したゴールデンフェザント産駒。




皐月賞10番人気で2着したシルクライトニング、12番人気で3着したフジヤマビザン。

1着サニーブライアンとまとめてフロック視されたメンメン。


期するものがあった。

皆より速く走った。先にゴールした事実。


いま一度、見せるッ!




6月1日、ダービー。

1.シルクライトニング    発走除外
2.セイリューオー
3.ゴッドスピード
4.ショウナンナンバー
5.シルクジャスティス
6.エアガッツ
7.エリモダンディー
8.サイレンススズカ
9.ビッグサンデー
10.マイネルマックス
11.スリーファイト
12.ランニングゲイル
13.フジヤマビザン
14.アチカネフクキタル
15.メジロブライト
16.テイエムトップダン
17.トキオエクセレント
18.サニーブライアン


1番人気メジロブライト、2番人気ランニングゲイル、3番人気シルクジャスティス。

4番人気サイレンススズカ、5番人気トキオエクセレント。


皐月賞馬サニーブライアンは6番人気だった。

皐月賞と同じ大外18番枠に入ったサニープライアン。枠順抽選開場で、主戦・大西直宏は小さくガッツポーズをした。

先行馬には辛い外枠。大西は大満足だった。出足の良くないサニーブライアン。だが、逃げなくては味のない馬。内で包まれてしまっては・・・・・・大外、邪魔する馬もいない。ひたすら逃げるには、最適な大外。


真剣に、真剣に、勝つ気の大西。

35歳ベテラン大西。一桁勝ち星の年も数多かった。

唯一の勲章は、サニーブライアンの叔父サニースワローでダービー22番人気2着。


G1初勝利をもたらしてくれたサニーブライアン。

フロックなんかじゃない! 叫びたい。だが、叫べない。


気持ちを内に秘めてしまう。

他厩舎から騎乗以来が来ないのも、原因はそこにあった。


『忘れられた騎手』大西直宏。


その内にある熱い思いは・・・・・・サニーブライアンだけがわかっていた。



ゲートが開いた。

真ん中の方の枠が速かった。

サイレンススズカ、ビッグサンデー。


だが、外から一気に伸ばす脚、サニーブライアンだ。

グングン行った。内へ切れ込んだ。


ハナは譲らない!


1,2コーナーを回って、完全に先頭に立った。

外から2番手に上がったフジヤマビザン。


内3番手、サイレンススズカ・上村洋行。

上村は懸命に抑えることだけに終始した。


ダービー2400mは逃げ切れない。

だが、抑えられることに満足しないサイレンススズカはクビを上げ、抵抗する。


有力馬は?

後ろだ。


中団を行くランニングゲイル、トキオエクセレント。


13番手外を行くメジロブライト。

その後ろに、シルクジャスティス。

そして、シルクジャステスの後ろにぴったりとつけるエリモダンディー。



つねに2馬身の差をつけて逃げるサニーブライアン。

緩むことのない平均ペース。



絶妙の逃げに持ち込んだ。

あとは、

2400mが持つか?



3コーナー、メジロブライトが中団まで押し上げてきた!

さすがに、直線勝負では間に合わない。

差を詰めた。


合わせて上がるランニングゲイル。


4コーナーへ向けて、外から前をめがけて上がった、マチカネフクキタル。


直線、勢いそのままにマチカネフクキタルが迫る。


並びかけようとする。


その後ろに、ズラーッと横に広がった馬群。


ランニングゲイルが、

メジロブライトが、

末脚を繰り出す。



だが、


バテないサニーブライアン。


どころか、


差を開いた。



歯を食いしばり、歯を食いしばり、全身の力を脚に込めた。


3馬身、4馬身。


開いていく差に、場内がどよめいた!


大歓声、


驚嘆の声。



ただ1頭が、サニーブライアンが16頭を引き連れてゴールをめざす。



ズラーと開いた大外。


ぶっ飛んできたシルクジャスティス!



後ろから追いかけるエリモダンディー。



メジロブライトも意地の伸びを見せた。




さすがに、ゴール前息切れたサニーブライアン。


波のように押し寄せた馬群。



呑み込まれる!



寸前、



サニーブライアンはゴールを突っ切った!



皐月賞・ダービー『2冠馬』。


栄冠は輝いた。




勝利騎手インタビュー。

『1番人気はいらないから、1着がほしい。そう、思っていました』


朴訥に語る大西直宏の姿があった。


1着サニーブライアン

2着シルクジャステス

3着メジロブライト

4着エリモダンディー

5着ランニングゲイル



『2冠馬』となったサニーブライアンだが、骨折が判明。『3冠』は絶望となった。

その後、屈腱炎を発症。ついに一度も復帰することなく競走馬生活から引退することとなった。



(つづく)