牝馬クラシック第1弾・桜花賞はキョウエイマーチ、メジロドーベルの戦いといわれ、不良馬場の中、キョウエイマーチが4馬身差の圧勝劇を演じた。


桜の女王となったキョウエイマーチ。

鞍上・松永幹夫、調教師・野村彰彦、生産者・インターナショナル牧場に初G1制覇をプレゼント。

生誕後、骨端症を発症。毎日朝夕の血液循環の薬、痛み止めの投与。炎症を起こした箇所の湿布。懸命の治療が行われた。

キョウエイマーチの兄も同じ病で、ついには競走馬として生活を送ることはできなかった。ばかりか、母インターシャルマンは繁殖牝馬失格の烙印を押され、行方不明となった。

奇跡的に病を克服、競走馬となれたキョウエイマーチ。

女王の勲章は携わった人々への感謝であり、走れなかった兄への思いであり、産んでくれた母への最大の感謝であった。

そして、オークスを制して『2冠』女王となるため、2400mの距離不安を囁かれるなか、自分自身への挑戦を始める。





桜花賞2着。キョウエイマーチに敗れたメジロドーベルもまた、大きな問題を抱えて生まれてきた。

母メジロビューティーは特殊な血液型を持ち、その血液が適合する種牡馬は日本では22%しかいなかった。父メジロライアンは不適合。1歳上の父サンデーサイレンスの兄が死んだことにより母の特殊な血液型が発覚した。

すでに、母メジロビューティーはメジロドーベルを身籠っていた。

生まれたドーベルは、免疫力をつけるための母の初乳を飲むことができない。不適合な血液を持つドーベル、飲めば命の危険があったからだ。

牧場にいた隻眼の繁殖牝馬メジロローラントから初乳をもらった。


数奇な運命を持つ牝馬2頭。競走馬として『勝ちたい』思いは、どの馬よりも強かった。

桜花賞の敗戦。メジロドーベルにとって、何よりも悔しいものだった。

キョウエイマーチの強い思いを肌で感じた。同じ臭いのする牝馬。


この馬にだけは負けたくない! 強烈なライバル心が沸き起こった。


キョウエイマーチに勝つために・・・・・・オークスへ向けて、日々の調教の辛さなどいとわない。





クイーンカップ、桜花賞トライアル・チューリップ賞、重賞連覇して桜花賞へ意気揚々として乗り込んだオレンジピール。サンデーサイレンス産駒。

5着に敗れた。

オークストライアル・4歳牝馬特別。クビ、ハナの大接戦のなかでつかんだ勝利。

再びトライアル勝ちで、『打倒!牝馬2強』に挑む。




曾祖母は『幻の桜花賞馬』イットー、祖母は桜花賞・エリザベス女王杯制覇ハギノトップレディ、母は安田記念・スプリンターズSの覇者ダイイチルビー。

『華麗なる一族』の末裔ダイイチシガー。

7戦2勝、2着2回、3着1回。良血を持てあましているのか、一歩及ばずの堅実馬。

オークストライアルでオレンジピールにクビ差の2着。オークス出走権を得た。


一族の誇りが目覚めたか?




父ヘクタープロテクターの持ち込み馬プロモーション。

母アサーションは社台がイギリスから輸入した繁殖牝馬。

欧州の良血牝馬。


6戦1勝だが、クイーンカップ2着、桜花賞7着。良血の片鱗は見せていた。




父ノーザンテースト、母父リアルシャダイのナイトクルーズ。社台の全盛の基盤となった種牡馬の血統配合。

4,4,3,3,3,1着。6戦目にして初勝利。5,2,5,10着。桜花賞は出走ならず。


桜花賞断念賞といわれた忘れな草賞(オープン)。

9番人気、スタートから果敢に逃げた。桜花賞への思いをぶつけるように、逃げに、逃げた。

ダイイチシガーを3馬身半、振り切って勝利。


胸張って、オークスへ出走。




キョウエイマーチ、メジロドーベル『2強牝馬』。

『打倒』をめざす牝馬たち。それぞれにある、熱き思い。





5月25日、オークス。

1.アイドルマキシム
2.ヤマニンザナドゥ
3.オレンジピール
4.スパークアロー
5.プロモーション
6.スプリングダイアナ
7.エアウイングス
8.エイシンカチータ
9.ナナヨーウイング
10.シーズプリンセス
11.ナイトクルーズ
12.ダイイチシガー
13.ハナノメガミ
14.キョウエイマーチ
15.フミノパラダイス
16.メジロドーベル


1番人気キョウエイマーチ、2番人気メジロドーベル、3番人気オレンジピール。

4番人気ダイイチシガー、5番人気ナイトクルーズ。



注目された先行争い。

14番枠から、1番人気キョウエイマーチが行った。

外から一気に内の馬を呑み込んで先頭に立った。


距離不安も、前に行ってこそのキョウエイマーチ。

鞍上・松永幹夫に迷いはなかった。



アイドルマキシマム、スパークアローが続き、プロモーションが4番手につけた先行陣。

中団につけたナイトクルーズ、エアウイングス。オレンジピール、フミノパラダイス。


メジロドーベルは中団後方、12番手を行った。

その後ろ、内々を行くナナヨーウイング。


母ナナヨーアトラスはダービー馬バンブーアトラス産駒で、クラシックは唯一オークスに出走4番人気11着。全姉ナナヨーストームも唯一オークスに出走3番人気15着。ともにオークスを最後に競走馬引退。

ナナヨーウイングも、条件の身ながらなんとかオークスへ出走。

13番人気、母たちとは違った。でも、同じ牝馬の祭典を走るからには、母たちの無念を晴らしたい・・・・・・。


縦長の長い、長い馬群。先頭のキョウエイマーチは見えない最後方から行くのは、『華麗なる一族』ダイイチシガーだ。



眦(まなじり)を上げ、ひたすら前を見つめて逃げるキョウエイマーチ。

3コーナーからエアウイングス、ナイトクルーズが押し上げ、フミノパラダイス、オレンジピール、続々と前に迫った。


直線、内から外へ大きく横に広がった馬群。

内ラチ沿いに懸命に粘るキョウエイマーチ。

外に回ったエアウイングス、ナイトクルーズ、さらにプロモーション、オレンジピールがやってくる!



馬群の中を、ジグザグにかき分ける三筋の光り。

後方から、馬群を突き抜けてきた3頭。

あっという間に先頭に立った!


ダイイチシガーだ!

ナナヨーウイングだ!


メジロドーベルだッ!



鮮やかに突き抜けた3頭。


さらに、突き抜けたメジロドーベル。


有無を言わせぬ末脚で、ナナヨーウイング、ダイイチシガーを突き放した!


懸命に追いすがるナナヨーウイング。


とても、追いつかない。


ダイイチシガーを振り切るのが、精一杯だった。



2馬身半。

揺るぎない強さで、ついにメジロドーベルは『樫の女王』となった。



勝てはしなかったナナヨーウイング。

3馬身。

『華麗なる一族』ダイイチシガーを振り切って2着。

母の、姉の、無念は晴らした。


1着メジロドーベル

2着ナナヨーウイング

3着ダイイチシガー

4着プロモーション

5着オレンジピール



直線失速したキョウエイマーチは11着と馬群に沈んだ。



(つづく)