度重なるケガ、出世の遅れた持ち込み馬サクラローレル。
ヨーロッパの名種牡馬レインボウクエストの直仔として期待され続けて、5歳に中山金杯で初重賞制覇も、両前脚深管骨折。安楽死も検討されるほどの重傷。
1996年、6歳になって復帰。鮮烈に素質を開花させた。
中山記念1着、天皇賞春1着、オールカマー1着、天皇賞秋3着、有馬記念1着。
一つ下の世代、マヤノトップガン、マーベラスサンデーとともに『古馬3強』を形成。有馬記念を制したことで3強トップとして、1997年の王道に臨む、が。
年明けに軽度の骨折。天皇賞春は、有馬記念以来のぶっつけ本番となった。
『3強』の一角、マヤノトップガン。菊花賞、有馬記念、宝塚記念、G1・3勝。
『3強』がそろって初対決となった天皇賞秋では2着マヤノトップガン、3着サクラローレル、4着マーベラスサンデー。若駒バブルガムフェローに名をなさしめた。
有馬記念では1着サクラローレル、2着マーベラスサンデー、7着マヤノトップガン。1頭沈んでしまった。
先行好位抜け出し・・・・・・それがマヤノトップガンの戦法だった。素直な気性とスピードの持続性、主戦・田原成貴は最大限にマヤノトップガンの良さを引き出してきたつもりだった。
だが、これでは『3強』のトップに立てない。悩んでいた。
3月、阪神大賞典から始動。単勝1.9倍、圧倒的1番人気。8頭立て、マヤノトップガンは最後方からレースを進めた。
3コーナーから大捲り。直線も勢いそのままに突き抜け、2着ビッグシンボルに3馬身半差の圧勝。
何かをつかんだか? 田原成貴。
天皇賞春、決意を持って臨む。勝つために・・・・・・。
『3強』といわれながら、G1勝ちのないマーベラスサンデー。
遅れてきた初年度サンデーサイレンス産駒。
体質の弱さ、骨折、4歳春から5歳春まで暗黒の休養。
甦ってから、武豊を背に6連勝。
『3強』といわれ、懸命にがんばったG1戦線。
互角ではだめだッ!互角以上。
強い、強いサクラローレル、マヤノトップガン。追い越さなければ、G1の冠は見えてこない。
3月、産経大阪杯。単勝1.5倍1番人気で快勝。
浮かれてはいられない。
天皇賞春。いざ、決戦。
『3強』の強さはわかっている。だが、走る限りは『打倒3強』。
秘かに狙う強者(つわもの)たち。
『サンデー四天王』と呼ばれた2年度サンデーサイレンス産駒。ただ1頭無冠のロイヤルタッチ。
皐月賞2着、ダービー4着、菊花賞2着、有馬記念4着。恥じる戦績ではない。
だが、名誉ともいえない。『無冠の大器』・・・・・・返上あるのみ。
初出走だったG1、菊花賞は、無惨11着。
サンデーサイレンス産駒の良血、ローゼンカバリー。
1月、アメリカジョッキークラブカップ1着。3月、中山記念3着、日経賞1着。
『3強』に挑む力はつけた。
菊花賞2着ステージチャンプ。『女優』ダイナアクトレスの仔。
長距離でこそ見せる名演技。
1994年天皇賞春、5着。1995年天皇賞春2着は、ハナ差に泣いた。
屈腱炎になった7歳。8歳、10カ月ぶりの復帰は天皇賞春だった。
ダイヤモンドS・芝3200m、2着。阪神大賞典・芝3000m、2着。
ステージチャンプと同じ長距離系リアルシャダイ産駒、ビッグシンボル。
下積みから、長距離を頼りにのし上がった。
4月27日、天皇賞春。
1.タマモハイウェイ
2.ロイヤルタッチ
3.メジロランバダ
4.マヤノトップガン
5.ギガトン
6.エイシンホンコン
7.インターライナー
8.サクラローレル
9.ローゼンカバリー
10.ビッグシンボル
11.ノーザンポラリス
12.ユウセンショウ
13.ポレール
14.マーベラスサンデー
15.ハギノリアルキング
16.ステージチャンプ
1番人気サクラローレル、2番人気マヤノトップガン、3番人気マーベラスサンデー。
4番人気ロイヤルタッチ、5番人気ビッグシンボル。
ビッグシンボルがハナを切った。
エイシンホンコン、タマモハイウェイ、ノーザンポラリスが追いかける。
マヤノトップガンは内、中団。前には行かない。いや、田原成貴が行かせなかった。
サクラローレル、マーベラスサンデーの標的にされてはダメだ。
田原成貴の決断は・・・・・・後ろから勝負。
だが、サクラローレルは、さらに後方に位置していた。
マークするのはマーベラスサンデー。
16頭の長い隊列の中で、マヤノトップガン・田原成貴、サクラローレル・横山典弘、マーベラスサンデー・武豊、それぞれの騎手の思いの中には、3頭しか浮かんでいなかった。
1周目の直線。
内でひたすら気配を消すマヤノトップガン。
サクラローレルが外からじわりじわりと、中団まで上がってきた。
ピッタリとマーク、マーベラスサンデー。
武豊は、直接プレッシャーをかけようとするのか?
流れは、向う正面から激流となった。
サクラローレルが動いたのだ。
かかりぎみに前へ、前へ、と行ったサクラローレルは、3コーナーで早くも2番手に上がった。
必死に先頭を守るビッグシンボル。
サクラローレルに合わせて動いた後続。
マーベラスサンデーはサクラローレルを追って、上がって行った。
後続が流れに乗り、前へ。新たな流れをつくる。
内にいるマヤノトップガンはどんどん位置を下げた。
ようやく外に出し、前を見た時はサクラローレルも、マーベラスサンデーも、はるか前にいた。
4コーナー。
逃げるビッグシンボルの外にピッタリと並びかけたサクラローレル。
その外にマーベラスサンデー、さらに外にローゼンカバリー。
4頭が横並びで、直線に入った!
4頭のすぐ後ろ、馬群の真ん中にロイヤルタッチ。虎視眈々と、前を狙った。
マヤノトップガンは外、ようやく中団。
直線、先頭に立ったサクラローレル。
並びかけようとするマーベラスサンデー。
2頭の競馬か?
武豊の渾身のムチに呼応したマーベラスサンデー。
わずかに前に出た。
そこからが強かったサクラローレル。
心折れない。
並走しながら、徐々に、徐々に、盛り返した。
並びかけ、再び前に出たサクラローレル。
2頭に、秘かに迫ろうとしていたロイヤルタッチ。
急激に失速した。
故障だッ!
無念。下がって行くロイヤルタッチ。
代わって、外から一気に迫る光りがあった。
金色に輝く栗毛。
マヤノトップガンだッ!
勝つために、前に出たマーベラスサンデーが沈み、
勝つために、後ろに下げたマヤノトップガンが、弾け、飛んだ。
サクラローレルに迫った。
瞬く間にサクラローレルを交わし去ったマヤノトップガン。
1馬身半の差をつけてゴールした。
サクラローレルから半馬身差でマーベラスサンデーが続いた。
4着ステージチャンプとは、4馬身の差がついていた。
3分14秒4、レコード。ライスシャワーがつくったレコードを、2秒7更新した。
1着マヤノトップガン
2着サクラローレル
3着マーベラスサンデー
4着ステージチャンプ
5着ローゼンカバリー
(つづく)