皐月賞、3馬身半差。ダービー、5馬身差。圧倒的な強さで『2冠』を獲ったナリタブライアン。

8戦無敗で『3冠』を達成したシンボリルドルフを管理していた野平祐二師は言った。

『現時点ではナリタブライアンが上かな』。


『皇帝』をも超えたか? 弟ナリタブライアン。

1歳違いの兄ビワハヤヒデは古馬となり連勝街道を驀進。天皇賞春を制し、宝塚記念ではアイルトンシンボリを5馬身ちぎった。

世代最強同士の兄と弟。

無敵の王者を打ち破るのは、兄か? 弟か?


『兄弟対決』の場となるはずだった有馬記念。

1994年競馬史、最高の注目レースであった。


兄ビワハヤヒデは天皇賞秋、5着に敗れた。屈腱炎発症、引退に追い込まれた。

夏場に体調を崩した弟ナリタブライアンは、不安視されながらも菊花賞では7馬身差の圧勝で『3冠』達成。

実績では完全に兄ビワハヤヒデを超えた。

だが、兄と戦い、兄とともに走り、兄に勝つ!・・・・・・叶わない望み。


兄ビワハヤヒデには、つねにあった弟の存在。皐月賞2着、ダービー2着、強くとも甘さのあったビワハヤヒデが、突き抜けた力を発揮し始めた。その契機は・・・・・・弟ナリタブライアンのデビュー。

弟ナリタブライアン。高すぎるテンションに加え、生来の臆病気質。2,1,6,1,3着。安定しなかった戦績が、兄の菊花賞制覇とともに連勝街道を突っ走りだした。

兄ビワハヤヒデ、大きな、大きな存在があった。


有馬記念、何を思うか? ナリタブライアン。


孤高な戦いは始まった。




負けても、負けても、ビワハヤヒデに勝つ! その望みで走ってきたネーハイシーザー。

やっと勝った、天皇賞秋。勝つには勝ったが5着に敗れたビワハヤヒデ、倒した実感はない。

それを最後に、目標ビワハヤヒデが消えた。


ネーハイシーザーもまた、ビワハヤヒデの幻影を追う旅に出るのか?




シンボリルドルフの仔、トウカイテイオーだけではない。自らに言い続けて走るアイルトンシンボリ。

4歳5月、遅咲きデビュー。ステイヤーズSを連覇した。宝塚記念でビワハヤヒデの2着。

がんばった。

まだまだ。


『皇帝』の仔の誇り。アイルトンシンボリは、ただ自らを鼓舞するだけ。自らに叱咤激励。




『サクラ』の良血サクラチトセオー。

右腰の弱点が出世を遅らせた。G1以外では9戦6勝、2着1回、3着2回。ダービー11着、宝塚記念6着、天皇賞秋6着、歯が立たないG1。

それでも、それでも、いつか・・・・・・。望みだけは捨てない。




有馬記念、3年連続3着。世紀の善戦マン・ナイスネイチャ。7歳。衰えにも抵抗して見せる。


花添える2頭の牝馬。エリザベス女王杯で死闘を演じたヒシアマゾン、チョウカイキャロル。

強き、たくましき花。




ミホノブルボンの『3冠』を阻止したライスシャワー。

メジロマックイーンの『天皇賞春3連覇』を阻止したライスシャワー。

『刺客』の異名。


『どこも悪くない』、だが戦績はオールカマー3着、天皇賞秋6着、ジャパンカップ14着、有馬記念8着、京都記念5着、日経賞2着。

闇から光りが見えだした途端に、右前管骨の故障発症。


9カ月、長期休養から復帰した。

『引退』、目の前をよぎる2文字との戦い。




12月25日、有馬記念。

1.ダンシングサーパス
2.マチカネアレグロ
3.マチカネタンホイザ   出走取消
4.ヤシマソブリン
5.ツイーンターボ
6.アイルトンシンボリ
7.ネーハイシーザー
8.ヒシアマゾン
9.ナイスネイチャ
10.ライスシャワー
11.ナリタブライアン
12.サクラチトセオー
13.チョウカイキャロル
14.ムッシュシェクル


1番人気ナリタブライアン、2番人気ネーハイシーザー、3番人気アイルトンシンボリ。

4番人気ライスシャワー、5番人気サクラチトセオー。



好スタートを切ったのはナリタブライアンだった。

すかさず追い越して、ハナに立った馬がいた。

ツインターボだ。


『最後の個性派』といわれた逃げ馬ツインターボ。『大逃げ』以外は逃げじゃない、とばかりにハナを切ると、ただ1頭、どんどん逃げていく。

たとえ、直線は根っきり葉っきり、歩くようにゴールへたどり着こうとも、道中は20馬身以上も離して逃げる。

それが、ツインターボだ。



離れた2番手にネーハイシーザー、3番手チョウカイキャロル。

その後につけたナリタブライアン。

マークするように横並びサクラチトセオー。


すぐ後ろにライスシャワー、アイルトンシンボリ。

ヒシアマゾン、ナイスネイチャ。

最後方、ダンシングサーパスまで、一団が続く。



ツインターボ1頭、離れて12頭の集団。


20m、


50m、


70m、


ただ1頭、別次元を行くツインターボ。


1000m通過、58秒8。


『暴走特急』に場内から大拍手大歓声が起こった。



向こう正面、ナリタブライアン・南井克巳が動き出した。


新たな大歓声。


単勝1.2倍。圧倒的な期待を背負ったナリタブライアンへの、信頼の大歓声か?



グーンと上がるナリタブライアン。遠目でもわかる白いシャドーロール。


4コーナー手前で力つきたツインターボを尻目に先頭に立った。


喰らいつくのは外、サクラチトセオー。その外から、凄まじい迫力で迫ってきたのは、牝馬ヒシアマゾンだ!


『アマゾネス』ヒシアマゾンに牝馬のか弱さなど無縁、とばかりに『シャドーロールの怪物』ナリタブライアンに挑みかかる。



直線、先頭のままゴールへ突っ走るナリタブライアン。


478㌔、雄大な馬格のヒシアマゾンが迫る。


内から迫るのは、ライスシャワー、アイルトンシンボリ。

大外に持ち出して、善戦マン・ナイスネイチャ。


それぞれにある有馬記念への思い。


ぶつけて、大本命ナリタブライアンに迫る。



すべて受け止める。


そして、弾き返す!


ナリタブライアン、『孤高の戦い』に容赦はなかった。



真一文字に、めざすはゴール。


3馬身差。


最も迫ったヒシアマゾンを、突き放したままゴールを駆け抜けた。


1着ナリタブライアン

2着ヒシアマゾン

3着ライスシャワー

4着アイルトンシンボリ

5着ナイスネイチャ



(つづく)