『乙女の祭典』桜花賞を制したのはオグリキャップの半妹オグリローマン。


桜花賞出走ならず『断念桜花賞』といわれた忘れな草賞を勝ち、見事、オークスを制覇したチョウカイキャロル。


牝馬クラシック。出走できいない辛さに耐え、勝ちまくる最強牝馬がいた。

アメリカ生まれの外国産馬ヒシアマゾンだ。


3歳時は1,2,2,1着。阪神3歳牝馬S(G1)で2着ローブモンタントに5馬身差の圧勝。世代最強牝馬の称号を得た。

4歳になって、京成杯2着後、クイーンカップ1着、クリスタルカップ1着、ニュージーランドトロフィー4歳S1着、クイーンS1着、エリザベス女王杯トライアル・ローズS1着。

そう、ローズSはエリザベス女王杯トライアル。その成り行きから、エリザベス女王杯は広く門戸を開放。外国産馬、外国馬にも出走権があった。


ギリシア神話に登場する最強の女性部族『アマゾネス』。その名から取られたヒシアマゾン。

ついに、クラシックでその強さを見せつける時が来た!




受けて立つ内国産馬。彼女たちに内国産馬・外国産馬の意識はなくとも、マスコミは煽り立てた。

『打倒、ヒシアマゾン』、挑戦するのはクラシックを戦ってきた内国産馬たち。その図式だ。



オークス馬チョウカイキャロル。主戦はミホノブルボンで『2冠』ジョッキーとなった小島貞博。

ハードトレでも有名であったが、人情派でもあった戸山為夫調教師。師の死去後、厩舎を引き継いだ森秀行調教師は徹底して合理性を追求する人物だった。

『勝つ馬は勝てる騎手に乗せる。一流ジョッキーに依頼するのが当然』。旧戸山厩舎所属の小島貞博は乗り馬を失った。

救いの手を差し伸べた鶴留明雄師によって、チョウカイキャロルの手綱を託された。

オークス・ジョッキーとなれたのは鶴留師のお蔭、チョウカイキャロルのお蔭。


オークス馬を傷つけるわけにはいかない。『ヒシアマゾンの好きにはさせない!』

闘争心を、決して表には出さない男。

胸の内に秘めた。


秋初戦、サファイアSを2着。ローズSをつかわずエリザベス女王杯に臨むチョウカイキャロル。




オークス2着馬ゴールデンジャック。

サファイアS3着、ローズS3着。チョウカイキャロル、ヒシアマゾン、両馬の走りを知る馬。

鞍上は4年目の若手・四位洋文。

オークスと同じ、後方一気の切れ味を見せるか? 黄金の輝きを持つ栗毛馬。




祖母はオークス馬アグネスレディー、叔母は桜花賞馬、オークス2着アグネスフローラ。

『アグネス』の良血の流れを担うアグネスパレード。

桜花賞8着、オークス3着。オークスで果たせなかった『血の約束』。

祖母アグネスレディーはエリザベス女王杯2着。叔母アグネスフローラはオークス後、引退。エリザベス女王杯不出走。


果たすことが、夢。『血の約束』。


河内洋を鞍上に、挑む。




言われたくない、オグリキャップの妹。

重圧しかなかった半妹オグリローマン。


桜花賞で知った。自分でも信じられなかったゴール前の脚。

あれは、兄の脚。私の中にもあったんだ。兄と同じ血、同じ脚。


歓喜の中でゴールした桜花賞。初めて誇りがもてた、『オグリキャップの妹』。


オークス12着。距離2400mは長い。だが、兄は、オグリキャップは、『血の掟』を打ち破った。

エリザベス女王杯、芝2400m。力の限り、走り抜く。




11月13日、エリザベス女王杯。

1.エイシンバーモント
2.リキサンフラッシュ
3.テンザンユタカ
4.メジロアムール
5.フサイチカツラ
6.ヒシアマゾン
7.オグリローマン
8.ゴールデンジャック
9.ジンシリウス
10.メモリージャスパー
11.バースルート
12.シーフリージア
13.ジョウノバタフライ
14.ミスオーロ
15.ヤマニンリコール
16.アグネスパレード
17.チョウカイキャロル
18.ナイスガルボ


1番人気ヒシアマゾン、2番人気チョウカイキャロル、3番人気ゴールデンジャック。

4番人気アグネスパレード、5番人気オグリローマン。



飛びだしたバースルート。2番手テンザンユタカ。

後はおかまいなしに、ドンドン行った。


人気馬をかく乱する戦法か?


ジンシリウスが行って、大外から3頭が好位を取りに行った。

ナイスガルボ、チョウカイキャロル、アグネスパレードだ。


後方から行くオークス4着メモリージャスパー、そして、末脚に賭けるゴールデンジャック。


後方3頭目。じっくり構えたヒシアマゾン。

鞍上は仲舘英二。美浦・加藤修甫厩舎に所属。10年目にして出会ったヒシアマゾン騎乗で、騎手として大きく成長を見せていた。

慌てず騒がず、前を見つめる。


最後方が、武豊が乗るオグリローマンだ。



向こう正面に入っても、飛ばすことをやめない先行2頭。

1000m通過、58秒1、ハイペース。

先頭バースルート、10馬身以上離れた2番手テンザンユタカ。


さらに10馬身以上離れて、ナイスガルボを筆頭に馬群が固まった。

アグネスパレード、チョウカイキャロルが、ヒシアマゾンを待つ。


ジリジリッと、後方5番手に押し上げたヒシアマゾン。

3コーナーから外を通ってスパートした。


合わせるように、前をめがけて上がって行くチョウカイキャロル、アグネスパレード。

外を回るチョウカイキャロル。

アグネスパレード・河内洋は、内を通った。



前を追った集団。一気に速くなった流れ。

大逃げ2頭との差は、縮まった。


4コーナーでは、後ろとの差を5馬身まで詰め寄られたバースルート。

かろうじて2番手を守るテンザンユタカ。


ジンシリウス、アグネスパレード。外から来るチョウカイキャロル、そのすぐ後ろまで・・・・・・ヒシアマゾンはやってきていた。



直線、『前はいつでも捕えられる』、後ろのヒシアマゾンが並ぶのを待ったチョウカイキャロル・小島貞博。

少しでも脚を溜めて、あとは食らいつくだけだ。


待った。


地響きを立てて、やってきたヒシアマゾン。


並んだ。


勝負だッ!



思った瞬間。


小島貞博は、内に走る影を見た。



河内洋が手綱を懸命に動かす、アグネスパレードだ!


外を回るチョウカイキャロル、ヒシアマゾン、その間隙を縫って、一気に抜け出した。


やった! このまま。



ゴールをめざすアグネスパレード。



追った、チョウカイキャロル、ヒシアマゾン。

火花を散らしながら、しのぎを削って・・・・・・アグネスパレードに迫った。


負けてたまるかッ! 

アグネスパレード・河内洋、チョウカイキャロル・小島貞博、ヒシアマゾン・仲舘英二、思いは同じ。


ゴール前50m、ついに、3頭が並んだ。



わずか50m、長い長い、50m。


わずかに、わずかに、アグネスパレードが追い抜かれた。


まったく、馬体を合わせて、ゴールへ飛び込んだチョウカイキャロル、ヒシアマゾン。



初対戦、


勝った方が、


最強馬だ!


意地と意地のぶつかり合い。



写真判定がなされた。



3㎝。


勝者と敗者の差。



ヒシアマゾンが勝っていた。


最強女王、ヒシアマゾン。



アグネスパレードはチョウカイキャロルにクビ差の3着だった。



1着ヒシアマゾン

2着チョウカイキャロル

3着アグネスパレード

4着メモリージャスパー

5着ゴールデンジャック


(つづく)