春のマイル王を決定する安田記念。

ヤマニンゼファー、シンコウラブリイ、ニシノフラワー、マイル界を彩った面々が引退し、新星の登場が待たれた。



期待されたのは前年のスプリンターズSを制したサクラバクシンオーだ。

4月、スプリンターズS以来のダービー卿チャレンジトロフィー(芝1200m)を勝ち、前年から3連勝。1400m以下では10戦9勝とした。

ただ、マイルは2,7,3,7,4着。200mの距離延長で別馬のようなサクラバクシンオーの戦績。


父は天皇賞馬(芝2000m)サクラユタカオー、母父は距離オールマイティーのノーザンテースト。伯父に天皇賞春・有馬記念勝ちのアンバーシャダイ。

マイルどころか、古馬の王道(天皇賞春・秋、ジャパンカップ、有馬記念、宝塚記念)を走れる血統。

スプリントだけの馬であるはずがない。


マイル王に挑戦。




この年、国際G1競走となった安田記念。世界から5頭の外国馬が来日。


アメリカで生まれ、フランスで調教されたスキーパラダイス。社台の吉田照哉氏が馬主。

フランスを中心に12戦4勝、2着7回、3着1回。G1・5戦、すべて2着という実績を引っ提げて日本にやってきた。


G1・1000ギニー、G1・ジャック・ル・マロワ賞優勝馬サイエダティ。

G1・フォレ賞優勝馬ドルフィンストリート。

G1・ミドルパークS優勝馬ザイーテン。

香港からやってきたウィニングパートナーズ。


実績豊富な5頭。


前哨戦として京王杯スプリングカップに4頭が出走。武豊騎乗のスキーパラダイスが勝利。ザイーテン・2着、サイエダティ・3着、ドリフィンストリート・4着、5着にホクトベガ、以下日本馬。その強さを証明した。




ベガ世代の遅れてきた女王候補、ノースフライト。

デビューは4歳5月。未出走戦9馬身差、足立山特別(500万下)8馬身差。

圧勝ぶりに、『秋、ベガの3冠を阻止するのは、この馬』といわれた。

4戦3勝で臨んだエリザベス女王杯、ベガには勝ったが・・・・・・『ベガはベガでもホクトベガ』の実況で有名なホクトベガに敗れて2着。

阪神牝馬特別、京都牝馬特別、マイラーズカップ、重賞3連勝で臨む安田記念。


同じ父トニービン。社台ファームの良血として生まれたベガ。

ノースフライトも社台ファームで生まれてくるはずだった。母シャダイフライトがノースフライトを身籠りながら、社台のセリ市に出された。410万円。生まれてくるノーザンフライト込みでの落札価格。社台に捨てられた母仔。

G1制覇、マイルの女王となることが、ノースフライトが母にできるせめてもの慰めだった。




5月15日、安田記念。

1.ゴールデンアイ
2.トーワダーリン
3.ビコーアルファー
4.ドルフィンストリート
5.ノースフライト
6.サイエダティ
7.フジヤマケンザン
8.ザイーテン
9.ホッカイセレス
10.ウィニングパートナーズ
11.マザートウショウ
12.サクラバクシンオー
13.スキーパラダイス
14.メイショウレグナム
15.ドージマムテキ
16.マイネルヨース


1番人気スキーパラダイス、2番人気サイエダティ、3番人気サクラバクシンオー。

4番人気ドルフィンストリート、5番人気ノースフライト。



小雨降る良馬場。暗い背景の中、世界と日本、16頭の戦いが始まった。

マザートウショウが飛び出し、外から追ったのはマイネルヨースだった。


フジヤマケンザン、ザイーテンが行き、サクラバクシンオーがその後につけた。


どんどん飛ばすハイペース。


3ハロン、33秒8。スプリント戦並みのペース。


先行馬群の後にガッチリ溜めたスキーパラダイス、サイエダティ。

中団後ろにドルフィンストリート。


ノースフライトは後方から3頭目。

後方2頭目が初代マイル王ニホンピロウイナーの仔、トーワダーリン。


ペースは緩むことがなかった。


3コーナーから、サクラバクシンオーが一気に上がり、直線では先頭に立つ勢い。


1000m、56秒9。速すぎる!


スプリント戦を走り、余力でマイルまで・・・・・・もたすかのようなバクシンオーの走り。


先行・好位馬が、どんどん下がって行く。


上がり始める後続。


サクラバクシンオー、結果は後からついて来る。ただ、飛ばすだけ。



逃がしはしない。


猛然と差してきたのは、


ノースフライトだ。



粘るサクラバクシンオー。


内から伸びてきたのは、外国馬ドルフィンストリート。



まとめて、差す。


ノースフライトの切れ味一閃。



私の心の叫びよ、故郷の母に届け。


母さん、見てください。この脚、このスピード、あなたがくれたもの。

私は、勝ちます!



一気に伸びた。

サクラバクシンオーが、後方に消えた。



1頭、抜け出してゴールをめざすノースフライト。



2着は死守する! 粘るサクラバクシンオー。


襲いかかったのは、外から鬼脚。10番人気トーワダーリンだ。


内からしぶとく、ドルフィンストリートも伸びた。



2馬身半差、


ノースフライト圧勝。



1着ノースフライト

2着トーワダーリン

3着ドルフィンストリート

4着サクラバクシンオー

5着スキーパラダイス


(つづく)