ナリタブライアンが圧倒的な強さで皐月賞を奪取した。

古馬の最高峰レース、天皇賞春。半兄ビワハヤヒデの出番だ。


有馬記念を勝ったトウカイテイオーが筋肉痛、左前トウ骨骨折。4度目の休養となった。

前年の覇者ライスシャワーは京都記念をビワハヤヒデの5着、日経賞をステージチャンプのハナ差2着、復活の兆しを見せた矢先に左前管骨を骨折、休養。

有馬記念11着惨敗したウイニングチケットは立て直し、休養中。


難敵は次々と消えて行ったビワハヤヒデ。完全な『1強』態勢となった。

単勝1.2倍となった京都記念で59㌔を背負い、ルーブルアクトに7馬身差の勝利。

もはや、敵はいない。

半弟ナリタブライアンの皐月賞での圧勝も相まって、ビワハヤヒデには負けることが許されない状況となった。




クラシック『3強』の一角、皐月賞馬ナリタタイシン。

ダービーは3着と敗れ、菊花賞はビワハヤヒデの9秒4も遅れた17着。ワケのわからぬ大惨敗。

崩れた『3強』。


菊花賞後、早めに休養。懸命の立て直しが施され、古馬初戦は2月の目黒記念だった。

後方から一気の追い込みを決め、2着ダンシングサーパスをアタマ差、差し切った。

甦った差し脚で復権を狙う。鞍上は武豊。




父リアルシャダイ、母父ノーザンテースト。典型的な社台ファームのニックス。

良血ムッシュシェクルは走ることが困難な馬だった。

トウカイテイオーと同期だが、デビューは遅く4歳6月。4戦2勝も屈腱炎、発症。

1年4カ月の休養。6歳、最下級条件から復帰。走れることの喜び。

1993年、11月・ルゼンチン共和国杯1着。1994年、1月・日経新春杯1着、3月・阪神大賞典1着。G2・3連勝。

もう7歳、いや、まだ7歳。ムッシュシェクルの競走年齢は、若かった。




ムッシュシェクルと同じ、父リアルシャダイ、母父ノーザンテースト。

母は『女優』ダイナアクトレス。

ステージチャンプは菊花賞、ビワハヤヒデの2着でようやくファンに面目を保った。人気がありすぎた『女優』の仔。大きすぎる期待。

古馬になって、2,3,4着。3月、日経賞1着。準備は整った。

天皇賞春、大舞台。雄々しく演じてみせる!




ミホノブルボン、ライスシャワーに隠れた2番手グループの筆頭マチカネタンホイザ。

古馬になって天皇賞春4着、有馬記念4着、もう少し、もう少し、超がるからえられない壁。




1991年・有馬記念3着、1992年・有馬記念3着、1993年・有馬記念3着。

究極の善戦マン、ナイスネイチャ。

決して善戦マンでありたくはなかった。

菊花賞4着、天皇賞秋4着、マイルチャンピオンシップ3着、超えられない壁があるからこそ、超えたかった。


挑む。いつも、めざすは『てっぺん』。




4月24日、天皇賞春。

1.シゲノランボー
2.ホクセツギンガ
3.ルーブルアクト
4.ナイスネイチャ
5.ムッシュシェクル
6.ナリタタイシン
7.マチカネタンホイザ
8.センゴクシルバー
9.ステージチャンプ
10.アンダーキング
11.ビワハヤヒデ


1番人気ビワハヤヒデ、2番人気ナリタタイシン、3番人気ムッシュシェクル。

4番人気ステージチャンプ、5番人気マチカネタンホイザ。



ビワハヤヒデ『1強』の影響か? わずか11頭の出走となった。

果敢に挑む10頭、ルーブルアクトがハナを主張した。


11番枠、やや出が鈍かったビワハヤヒデだが、すぐさま外から上がり2番手につけた。

つねに先行・好位で勝負する。これがビワハヤヒデ、強く堅実無比な真骨頂。


ガッチリと手綱を押さえた鞍上・岡部幸雄。

もう、微動だにしない。

3番手ホクセツギンガ。アンダーキングが続く。


2馬身離れて、集団の前を行くムッシュシェクル。

中団の集団の中にステージチャンプ、マチカネタンホイザ。

睨むのは、前のビワハヤヒデ。


後方にバラけた3頭。

ナイスネイチャ、離れてナリタタイシン、さらに離れてシゲノランボー。


ナリタタイシン・武豊、自分の競馬をするだけ。

ひたすら我慢。

その豪脚一閃、どこまで迫れるか?


末脚に賭けた。



速くはない、淡々としたペース。


動いたのは、ムッシュシェクル。


3コーナー、前との差を詰めた。

ステージチャンプも動いた。


大舞台の勝負どころ、外から、上がりを見せる。



集団に取りついたナリタタイシン。

大外から前の馬を飲み込み始めたのは、4コーナー手前だった。


上がるのは、ここしかないッ!


手綱を動かす武豊。グーンと反応したナリタイシン。



ビワハヤヒデの岡部は、まだ動かない。


直線に入った。


手綱はガッチリ押さえられたまま、ルーブルアクトを交わして先頭に立ったビワハヤヒデ。


懸命に迫ろうとするムッシュシェクル。


その外から、



やってきた! ナリタタイシンだ。



岡部の手が動いた。


待っていたか?


ビワハヤヒデが加速した。


王道の走り。まっすぐに、まっすぐに、ゴールをめざした。



諦めはしない!


差すんだぁぁぁあああーッ!


豪脚を繰り出すナリタタイシン。


ビワハヤヒデに迫った。


『3強』と呼ばれた意地がある。



受け止めるビワハヤヒデ。


迫るナリタタイシンに負けぬ勢いで、ゴールを突っ切った。


1馬身4分の1差。



届かせはしない。



弟よ、ブライアンよ、見よ。これが、兄の姿だ!


ビワハヤヒデは雄々しく吠えた。


1着ビワハヤヒデ

2着ナリタタイシン

3着ムッシュシェクル

4着ナイスネイチャ

5着マチカネタンホイザ


(つづく)