春のマイルG1、安田記念を制したヤマニンゼファーは天皇賞秋に出走。

見事、天皇賞馬に輝いた。


秋のマイルG1、マイルチャンピオンシップ。同期の牝馬2頭、シンコウラブリイ、ニシノフラワーの注目の戦いとなり、春とはガラッとメンバーが入れ替わった。


阪神3歳牝馬Sを制し、桜花賞を勝ち女王となったニシノフラワー。オークス、エリザベス女王杯、距離延びて失った輝きを、芝1200m・スプリンターズS制覇で取り戻した。

が、マイラーズカップ優勝後は安田記念10着、宝塚記念8着。秋にスワンS3着で取り戻しかけた輝き。

復権マイルの女王をめざす。




アイルランドからやってきた天才少女、シンコウラブリイ。

いまや名門となった藤沢和雄厩舎の礎を築いたといっても過言ではない。


3歳時は3戦2勝、3着1回。阪神3歳牝馬Sでニシノフラワーの3着。

ニシノフラワーの存在を知った。


外国産馬。牝馬クラシックに出走権のないことを知ったシンコウラブリイ。

ただ、厩舎のために走った。

ニュージ-ランドトロフィー4歳Sを勝ち、藤沢厩舎に初重賞をプレゼント。

ラジオたんぱ賞、クイーンS、立て続けに重賞3連勝。

初めて出走なったマイルチャンピオンシップでは、古馬ダイタクヘリオスに敗れて2着。


古馬となって獲りに行ったG1安田記念。強いヤマニンゼファーがいた。『鉄の女』イクノディクタスにも屈して3着。

札幌日経オープン(オープン)、毎日王冠(G2)、スワンS(G2)、3連勝。G1・マイルチャンピオンシップへ、時は熟し切った。


14戦9勝、2着2回、3着2回。重賞5勝。

無いものは、G1の『冠』。


遠い、遠い異国の地へやってきたシンコウラブリイ。

同じ年代の牝馬、ニシノフラワー、アドラーブルらと牝馬クラシックの祭典に出ることはなかった。

乙女の心に残った、なぜ?

払拭できない疑問。それでも走った。華やかな舞台、自分は出れない。でも、裏街道を走るしかない。

やっと走れた大舞台は、古馬の猛者ぞろいだったマイルチャンピオンシップ、安田記念。

厳しい、厳しい戦いだった。手強すぎるダイタクヘリオス、強すぎるヤマニンゼファー。

負けて、負けて、乙女から強い女になったシンコウラブリイ。

異国の地で、『てっぺん』を獲るッ!



弥彦特別(900万下条件)、関屋記念(G3)、京王杯オータムハンデ(G3)、条件から成り上がり3連勝のマイスタージンガー。


マイルチャンピオンシップ1991年13着、1992年14着、厚い壁に打ちのめされ続けるステイジヒーロー。8歳、39戦目の挑戦。スワンS2着、今度は、違う。


短距離で逃げて逃げまくるイイデザオウ。オープンへ上がったのは5歳夏。駆け上がる脚は遅かった。直前のアイルランドトロフィー(オープン)を8番人気で逃げ切り勝ち。初のG1で、逃げっぷりを見せる時がきた。


ミホノブルボン知られるハードトレ・戸山厩舎の生き残りドージマムテキ。戸山為夫師の逝去にともない鶴留厩舎から、合理的で知られる森秀行厩舎に移った。皐月賞15着、ダービー17着、戸山厩舎からの主戦・小島貞博が騎乗。

10歳まで走り続ける『無事之名馬』として無敵の存在となるが、小島貞博とは事実上最後のコンビとなる一戦。




11月21日、マイルチャンピオンシップ。

1.トーヨーリファール
2.ヤクモアサカゼ
3.レガシーフィールド
4.ヤマニングローバル
5.シンコウラブリイ
6.エルカーサリバー
7.マイスタージンガー
8.イイデザオウ
9.メイショウマリーン
10.ヤマニンシアトル
11.ステイジヒーロー
12.フジヤマケンザン
13.ドージマムテキ
14.ニシノフラワー
15.ビッグファイト


1番人気シンコウラブリイ、2番人気ニシノフラワー、3番人気マイスタージンガー。

4番人気ステイジヒーロー、5番人気トーヨーリファール。



雨の不良馬場。スワンSを重馬場で勝っているシンコウラブリイだが、初めての不良馬場。

天性のスピードが殺される馬場で力勝負。しかも、G1。不安は広がった。


ゲートを真っ先に飛び出したのはイイデザオウ。

前走、重馬場のアイルランドトロフィーで4馬身ちぎって逃げ切った。不良馬場は望むところ。


マイスタージンガー、外からフジヤマケンザン、ニシノフラワー、ドージマムテキが殺到した。

その後ろ、トーヨーリファールと並んで追走するシンコウラブリイ。


エルカーサリバー、ステイジヒーローあたりも懸命に追走する。

不良馬場、サバイバルレースの幕開け。



不良馬場でもスピードを緩めないイイデザオウ。

1頭抜けて3馬身のリードをつけて飛ばす。


3,4コーナー、不良馬場に脚をとられたか? 下がり始めるニシノフラワー、フジヤマケンザン。


2番手に喰らいつくマイスタージンガー。

内から上がってきたのはトーヨーリファール、シンコウラブリイ。


外目を通って、ドージマムテキが脚を伸ばす。

鞍上・小島貞博。弟子は家族、自厩舎の馬には何があっても自厩舎の騎手を乗せる・・・・・・故戸山為夫師。旧戸山厩舎を引き継いだ森秀行調教師は違った。

徹底した合理主義、勝てる騎手に乗せる。

旧戸山厩舎、小島貞博、小谷内秀夫は森師の騎手構想から外された。


ドージマムテキに乗る小島貞博も、事実上、これが最後だった。

小島も、それを予感していた。


ここで下がるわけにはいかないッ!

懸命に押した、上がって行った。



直線、粘るイイデザオウ。

つかまえに行くマイスタージンガー、シンコウラブリイ。

トーヨーリファールが力尽きた。



イイデザオウ、逃げ切るか?


逃がしはしない。



ここで勝たなくては、


明日はない気で走る。



直線半ば、先頭に躍り出たのは、


シンコウラブリイだ!



誰のためでもない。自分のために『てっぺん』を獲る。


長かった思い。ついに、ついに、ゴールへの道は開いた。


前に、ニシノフラワーも、ダイタクヘリオスも、ヤマニンゼファーも・・・・・・何もいない。


シンコウラブリイは、泥だらけになりながら、真一文字に突っ切った。


栄光のゴール。



粘る2着イイデザオウに襲いかかったのは、ドージマムテキだった。


1着シンコウラブリイ

2着イイデザオウ

3着ドージマムテキ

4着マイスタージンガー

5着トーヨーリファール


(つづく)