天皇賞秋で実現した『芦毛の怪物頂上対決』。

4歳オグリキャップを1馬身4分の1差、5歳タマモクロスが抑え込んで勝利。


4歳秋、最低条件戦から8連勝。鳴尾記念から重賞6連勝。天皇賞の勝ち抜け制度がなくなってから、初の春秋連覇という偉業を達成したタマモクロス。

G1勝ち馬の晴れ姿。表彰セレモニーの生産者のお立ち台はいつも空白だった。

倒産した故郷・錦野牧場の場長・錦野昌章氏。一家離散し、東京で建設作業員としてひっそりと暮らす錦野氏。

『オレの一世一代の傑作になる』、シービークロスとグリーンシャトーの仔タマモクロスにすべてを賭けていた錦野氏。時遅くにしても思いは、タマモクロスが叶えてくれた。どんなに嬉しかったことか。

だが、あのお立ち台に上がることはできない。タマモクロス、そして妹のミヤマポピーの故郷を失くしてしまったのは自分だ。2頭の母であるグリーンシャトー。名馬の母として、しあわせな老後を迎えられるはずだったグリーンシャトーを死なせてしまったのは、錦野牧場の倒産があったからだ。繊細な馬だった。牧場を転々と回され、ストレスから腸捻転を起こして死亡した。

すべては、すべては、自分が悪い。

錦野氏は、公の場に出ることは一度もなかった。


故郷の匂いのない表彰セレモニー。タマモクロスは、主のいない白いお立ち台を、ただ見つめていた。



そして、ジャパンカップ。

オグリキャップ陣営も出走の意思を見せた。

『芦毛の怪物頂上対決』、再戦。


宝塚記念を挟んでG1・3連覇中のタマモクロス。思いはひとつ、『勝ち続けるだけ』。

妹のミヤマポピーもエリザベス女王杯を勝ってくれた。母グリーンシャトーの血の確かさを証明した。

勝ち続けて、故郷の確かさを知らしめる。



中央重賞6連勝の快進撃をストップさせられたオグリキャップ。


最初は驚きだった、人々の目。

勝つたびに変わってきた。

羨望に変わった、憧れに変わった。

勝った時の歓喜の声が、耳の奥底まで響き木霊(こだま)する。


父ダンシングキャップ、母父シルバーシャーク。二流の血。血の運命(さだめ)は短距離。

2000mを超える距離で、発揮できるパフォーマンスに乏しい血。


二流の血にも逆らうオグリキャップ。

『反骨』こそ、走る源。距離の壁など、なんということはないッ。


ファンの温かい眼差し、声援。オグリキャップの心を後押しした。



芦毛の怪物タマモクロス。

芦毛の怪物オグリキャップ。


それぞれに、それぞれの思いを抱えて・・・・・・走る。



第8回ジャパンカップ、『芦毛の怪物頂上対決』。


2頭の思いは・・・・・・人々の思い思わぬところにあった。


(つづく)