地方競馬から野望を抱いてやって来たオグリキャップ。

中央入り後、重賞を勝ち続けたもののクラシックを走れない。

『芦毛の怪物』は切なさと健気さが、よりファンを虜にしていった。


1970年代に登場した『スーパーアイドルホース』ハイセイコーに、並び、超える素材。


一方、『スーパースター』候補生として人気を博していたサッカーボーイ。

3歳(現表記2歳)時、4戦3勝。9馬身、10馬身、8馬身、勝つときは圧倒的な強さを見せつけた。

弥生賞3着、飛節炎、NHK杯4着、ダービー15着。体調面もあったが、4歳となって3連敗。

ダービーで喫した大敗。

『スーパースター』の座が見えなくなった。


7月、中日スポーツ賞4歳Sでヤエノムテキを下し、復活。

8月、函館記念でメリーナイス、シリウスシンボリ、2頭のダービー馬を破り、2000m・1分57秒8、当時の日本レコード。

2着メリーナイスには5馬身の差をつけた圧巻の勝利。

尾花栗毛が黄金色に輝きなびく、それは『スーパースター』の姿。


勝つときは桁外れ。


オグリキャップとは異質の『天才』。


菊花賞でクラシック最後の冠を狙うか?天皇賞秋でオグリキャップと初対決なるか?

すべては捻挫というアクシデントで無となり、サッカーボーイはマイルチャンピオンシップでG1を狙うこととなった。




3歳時、5戦3勝、2着1回、3着1回。朝日杯3歳Sは1番人気2着のホクトヘリオス。

希望たっぷりの1987年。4歳時は散々だった。4,13,13,3,10,13着。

この年、マイル中心に復活を賭けた。2,2,3,4,4,8,1,6着。

春の安田記念はニッポーテイオーの4着。京王杯オータムハンデでは1年10か月ぶりの勝利。

この頃から後方一気の差し脚に磨きをかけ、ひたすらマイル王を狙う執念の馬となった。



朝日チャレンジカップ2着、スワンS1着。10戦6勝、2着2回。メキメキ力をつけてきた5歳牝馬シンウインド。

故障がちで度々の休養を挟んで、まだ10戦。

スピードを武器に、めざすは『マイル女王』。



地方からやってきて3年、7歳となったミスターボーイは35戦目。

マイルチャンピオンシップは7着、3着。この春、マイラーズカップを制覇、安田記念3着。

7歳にして充実の時を迎えた野武士。



1987年安田記念覇者フレッシュボイス。

皐月賞2着、菊花賞6着、有馬記念5着、安田記念1着、宝塚記念6着、天皇賞秋6着、安田記念5着、宝塚記念5着。

どんな距離も、どこの馬場も走ってきた、あくなき追求者。

追い込み一手。不器用なレースぶりだが大崩れはしない。実は、器用貧乏なのか?

否、否否。

どんな状況も、甘んじて受け入れた。受け入れた限りは懸命に走った。投げ出したくなかっただけ。


父フィリップオブスペイン。早熟系のスプリンター。

母シャトーハードは気性が荒く、競走馬としては未出走に終わった。その仔たちも気性の荒さを受け継ぎ5番仔までは大成しなかった。『温厚な気性』、それだけで選ばれた父フィリップオブスペイン。そして、生まれた6番仔、それがフレッシュボイスだった。

幼い頃から大人しくて賢い仔、それがフレッシュボイスへの評価だった。

わがままを言えば、父の血、短距離にこそ走る喜びを感じていた。


弾けた、切れに切れた1987年安田記念。

あの感触を再び。



4歳若駒サッカーボーイの好きにはさせない! 燃え立つ古豪たち。



11月20日、マイルチャンピオンシップ

1.フレッシュボイス
2.シンウインド
3.ラガーブラック
4.イーグルシャトー
5.エイシンテンペスト
6.ダイタクロンシャン
7.アドバンスモア
8.ヒデリュウオー
9.ヒシノリフォー
10.ミスターボーイ
11.ホクトヘリオス
12.シクレノンセラビー
13.トーアファルコン
14.サッカーボーイ
15.アルファレックス
16.トウショウマリオ
17.サンキンハヤテ


1番人気サッカーボーイ、2番人気シンウインド、3番人気フレッシュボイス。

4番人気ホクトヘリオス、5番人気ミスターボーイ。


アドバンスモア、ヒシノリュウオーが飛び出し、ミスターボーイが続いた。


出遅れ加減から内を突いて中団まで押し上げたシンウインド。

その前に、6番手内、なんとフレッシュボイスがいた。


勝つことに燃えたフレッシュボイス。大人しく賢い馬が、気を逸らせてしまった、か?


後方12番手、外につけたサッカーボーイ。

じっくりと、じっくりと、河内洋の手綱は抑えられている。


ぶっちぎるか? 惨敗か? まだ、定かではない。

それが、サッカーボーイ。


後方3頭目。直線までは、我慢。地を睨み走る、ホクトヘリオス。



3コーナー、オレンジ色の帽子が外から前へ前へと向かって行った。

同時に大歓声が沸き起こり、うねりとなった。


サッカーボーイが動き出したのだ!


外から前にいるの馬を捻じ伏せるように、捲り上げた。



4コーナーを回って直線、大外から見えた黄金のたてがみ、額に走る白い流星。

人々は歓喜した、サッカーボーイの雄姿。


だが、4,5馬身前に抜け出したミスターボーイがいた。


抜けるのかッ!



スーパースターに不安はなかった。



ムチなどいらぬッ。河内が押す手綱に反応してサッカーボーイは、グイッグイッ伸びた。


ミスターボーイに並びかけるや、交わし去った。



内、気を逸らせたフレッシュボイスは裏目に出たか? 伸びない!

代わって内から伸びてきたシンウインド。


大外、渾身の差し脚を見せて上がってきたホクトヘリオス。


ミスタボーイをめぐる2着争いに過ぎなかった。



4馬身差。


勝利を確信した河内洋が手綱を緩めた時、


そこが『スーパースター』サッカーボーイの強さを見せつけたゴールだった。



つねには見せない輝き。


だが輝きは『スーパースター』。


異質の天才、それがサッカーボーイだ。


1着サッカーボーイ

2着ホクトヘリオス

3着ミスターボーイ

4着シンウインド

5着ヒデリュウオー


(つづく)