地方から来た野武士。

地方時、12戦10勝も愛知・笠松レベル。どこまでやれることやら・・・・・・それがオグリキャップに対する評価だった。

ペガサスS(G3)1着、毎日杯(G3)1着、京都4歳特別(G3)1着、ニュージーランドトロフィー(G2)1着、高松宮杯(G2)1着。驚きとともに評価は覆った。

クラシック登録のないことがわかるや、その切なさがより人気を呼んだ。

4歳馬(現表記3歳)がめざす『てっぺん』、皐月賞・ダービー・菊花賞に出る権利を持たない実力馬。

毎日杯で退けたヤエノムテキが皐月賞を獲った。

京都4歳特別では5馬身差、ニュージーランドトロフィーでは7馬身差、圧勝。

高松宮杯では古馬の強豪ランドヒリュウを打ち破った。


目標なき快進撃を続けるオグリキャップに目標ができた。前年から4歳馬でも出走可能となった天皇賞秋。

古馬相手に『てっぺん』獲りに挑む。


10月、毎日王冠(G2)。

1985年ダービー馬シリウスシンボリ、遅れてやって来た大物ボールドノースマン、『女優』ダイナアクトレス、安田記念勝ちフレッシュボイス・・・・・・錚々たる古馬を相手に、単勝1.7倍の人気を背負って貫録勝ち。

中央重賞6連勝で天皇賞秋に臨む。



立ちはだかる大きな、大きな壁があった。

天皇賞春を制して、突然の開花から6連勝。宝塚記念でマイル王ニッポーテイオーに勝って、7連勝。負けることを知らなくなったタマモクロスだ。

奇しくも芦毛のタマモクロス、芦毛のオグリキャップ。

『芦毛の怪物頂上対決』、マスコミがこぞって盛り上げた。



古馬にとって最高の栄誉、天皇賞馬。

天皇賞秋を2頭だけの場にはさせない。熱き思いの面々。


この年も重賞2勝、通算重賞5勝を上げた『女優』ダイナアクトレス。

安田記念はニッポーテイオーに敗れた2着。健在ぶりを見せる女優魂。


ダービー制覇後、2年ものヨーロッパ遠征に出されたシリウスシンボリ。日本に復帰して1年。

勝てないなかで、やっと毎日王冠2着。かすかな光明が見えた。


故障に泣いたボールドノースマン。5歳秋でまだ8戦。

新馬勝ちから1年以上の休養を挟んで4連勝。3着、4着、1着、毎日王冠3着、さらにめざす上は『てっぺん』。


前年天皇賞秋は2着。果てなき逃亡者レジェンドテイオーのめざすものは・・・・・・。

栄光への『逃げ』。


6歳ランニングフリー(=順風満帆)にとって、まだまだ航海半ば。

天皇賞春、13番人気、奇跡の2着は想定内。まだまだ強くなって荒波を突き進む。


ダービー1番人気大惨敗のマティリアル。勝てない日々で、諦めていなかった頂上制覇。

やがて来る悪夢を知る由もない。




10月30日、天皇賞秋。

1.オグリキャップ
2.パリスベンベ
3.ランニングフリー
4.ボールドノースマン
5.ダイナアクトレス
6.カシマキング
7.ガルダン
8.マティリアル
9.タマモクロス
10.シリウスシンボリ
11.カイラスアモン
12.レジェンドテイオー
13.トウショウサミット


1番人気オグリキャップ、2番人気タマモクロス、3番人気ダイナアクトレス。

4番人気ボールドノースマン、5番人気シリウスシンボリ。


12番枠、外から内へ切れ込んで逃亡者レジェンドテイオーが行った。

見る間に4馬身、5馬身、わが道を行くレジェンドテイオー。


離れた2番手に付けたのは、タマモクロスだ。


カイラスアモン、ガルダンが続き、あとをランニングフリー、シリウスシンボリがつけた。

オグリキャップは8番手。後ろからタマモクロスを睨んだ。


後方にはダイナアクトレス、ボールドノースマン、マティリアル。


他馬を突き離し、逃げるレジェンドテイオー。

1000m59秒4、絶妙のペース。


3,4コーナー、ジリジリと詰めるタマモクロス。

鞍上・南井克巳には、後ろから来るであろうオグリキャップのことしか頭になかった。

1歳下とはいえ、負けなしの快進撃を続けるオグリキャップ。京都4歳特別では自らが手綱を取り、その強さはわかっている。


直線に入った。

逃げるレジェンドテイオーが粘る。


必死の抵抗。


タマモクロスは、直線半ばでとらえた。

先頭に立った!


その時だ。


外、後方から迫る馬の気配。


場内の歓声が轟音となり、全身を身震いさせた。

来たッ!オグリキャップだ。


抜け出した芦毛のタマモクロスに迫る、もう1頭の芦毛。


怪物同士の一騎打ち。



差は3馬身、


2馬身、


タマモクロスのなびく銀色の尾に、


わずかに、オグリキャップの鼻面が届いた時、


南井が心の雄叫びをを上げた。



そこがゴールだった。


芦毛怪物対決は、古馬タマモクロスに凱歌が上がった。


1着タマモクロス

2着オグリキャップ

3着レジェンドテイオー

4着ダイナアクトレス

5着ランイングフリー



頂上決戦第一幕。勝者タマモクロス。

芦毛の怪物頂上決戦はジャパンカップ、有馬記念へと続いて行く。そして、それは伝説となる。


そして、このレースを最後に、ダイナアクトレス、シリウスシンボリ、ボールドノースマン、トウショウサミットが、ターフを去った。



(つづく)