皐月賞を勝った、ヤエノムテキ。

何よりもの栄誉。


父はヤマニンスキー。22戦5勝、条件馬のまま引退。到底、種牡馬になれる戦績ではなかった。

その父ニジンスキー、母父バックパサー。8戦8勝、2着馬につけた着差の合計が61馬身。『怪物』といわれたマルゼンスキーと同じ配合。

安価なマルゼンスキーの代替種牡馬として生きる道をつかんだ馬。

代替なんかじゃない! 血の正しさを、息子ヤエノムテキが証明して見せた。



クラシックを走れない。もう一つの孤独な戦い。

オグリキャップに大きな光が当たった。


中央入り2勝目、毎日杯で4着に下したのがヤエノムテキ。

クラシックを戦わなくとも、その『怪物』の素材を鮮明にした。


地方競馬・笠松で生き、笠松で終わる馬。最初の馬主・小栗孝一氏のなかに、クラシック予備登録は存在しなかった。

それがために走れないクラシック。

その悔しさをレースにぶちまけたか?


否。


オグリキャップはただ、目の前のレースに勝とうとしただけ。


いつ身に着けたのか、わからない。

地方時代、新馬戦2着、4戦目2着、それ以外は負けていない。


5月、京都4歳特別(G3)、2着コウエイスパートを5馬身ちぎった。

6月、ニュージーランドトロフィー4歳S(G2)を、リンドホシに7馬身差をつけて圧勝。

7月、高松宮杯(G2)。初めて古馬と走った。

宝塚記念4着の古豪ランドヒリュウのまさかの逃げに戸惑いながらも、直線差し切った。



地方時代からの8連勝を併せて、13連勝。中央重賞5連勝。


オグリキャップを誰が止めるのか?


盛り上がるクラシックのもう一方で、どんどん怪物化していくオグリキャップ。




クラシックに出れないオグリキャップ。

ならば、タマモクロスと対戦してほしい。


ともに似た、まだ色濃いグレーの芦毛馬、タマモクロス、オグリキャップ。


天皇賞春を勝ち、突然変異から6連勝中の古馬タマモクロス。

止まるところを知らない強さは、オグリキャップに匹敵する。


4歳でも出走できるようになった古馬最高峰レース、天皇賞秋。


ぜひ、見たい。『芦毛の怪物、頂上決戦』。


ファンは早くも世紀の対決を夢見た。


(つづく)