牝馬クラシック戦線。

3歳時に名を馳せたのは関東馬だった。


東の3歳牝馬Sを勝ったシノクロス。父はシービークロス。

タマモクロスの突然の活躍とともに、馬産界シービークロスの人気を一気に上げた。

新馬勝ち後、3,5,4着、どっちつかずの戦績だったが京成杯3歳Sを8番人気で勝ち、一気に3歳牝馬Sまでも制した。東のシンデレラガール。



3歳牝馬Sで1番人気3着に敗れたアイノマーチ。

快速を誇り、それまで逃げて3戦2勝、2着1回。420㌔そこそこの小柄な牝馬だったが、外連味(けれんみ)ない逃げ脚で魅了した。



新馬戦、クローバー賞、アイビーSを3連勝したシンボリ牧場の逸材スイートローザンヌ。

父モガミは、『メジロ』の総帥・北野豊吉氏と『シンボリ』の総帥・和田共弘氏が共同購入した期待の種牡馬。母父は『シンボリ』の期待馬だったカーネルシンボリ。

好位から最速の上がりで勝つ。安定したレースぶりで『桜花賞最有力』とまでいわれた。



4歳になって、状況が大きく変化していった。

ただ、桜花賞前までその変化は微妙であり、誰も知り得なかった。いずれ来る激流を。


3戦3勝のスイートローザンヌは体調が整わず、桜花賞はぶっつけ出走となった。

シノクロスはクイーンC2着、桜花賞トライアル・4歳牝馬特別3着で桜花賞へ臨む。

アイノマーチは新春4歳牝馬Sは勝つものの、クイーンC3着、桜花賞トライアルは7着と惨敗した。



桜花賞トライアル・4歳牝馬特別を勝ったのはスカーレットリボン。

3歳時は2戦1勝、2着1回。4歳になって紅梅賞1着、ヒヤシンス賞2着。4戦すべて単勝1倍台という社台レースホースの期待馬だった。

母はアメリカから輸入したスカーレットインク。後にスカーレットブーケを産み、その仔からダイワルージュ、ダイワメジャー、ダイワスカーレットが出ている。現在の名牝系の一つ。



関東馬ばかりの有力馬のなかで、西にもようやく対抗できそうな馬が出現した。


トライアル2着のアラホウトク。1月デビューで2,1,1,2着。

父はトウショウボーイ。母ビンゴモレロの全弟には皐月賞馬ビンゴチムールがいる。従兄にはダービー3着、菊花賞2着のビンゴカンタ。

栗東の庄野穂積厩舎、担当厩務員は堀切広幸。


同じ庄野厩舎、堀切厩務員担当の馬にシヨノロマンがいた。

父はアローエクスプレスの仔として唯一種牡馬となったリードワンダー。母父はシンザン。

母はシラオキ系のシンシラオキ。2冠馬コダマ、皐月賞馬シンツバを送り出したシラオキ。その子孫・シラオキ系からはヒデハヤテ、ハシコトブキ、サンエイソロンなどが出ており、後にマチカネフクキタル、シスタートウショウ、シーイズトウショウ、ウオッカなどが出る。

良血・・・・・・ではあったが、その良血は認められてはおらず、セリでその雄大な馬体に惚れた庄野調教師に見い出されて、甥の庄野昭彦氏が365万円で購入した。世間でいう『安馬』の部類に入る。

4歳2月デビューと遅かったが、新馬戦、こぶし賞、チューリップ賞と3連勝。

デビュー2年目の武豊を鞍上に桜花賞、一流牝馬の舞台に立つ。



スカーレットリボン、遠い未来の近親にいるダイワスカーレット。はたまた、ウオッカが存在するシヨノロマン。

語り継がれる世代のライバル、ウオッカ・ダイワスカーレット。遠い遠い古(いにしえ)の縁は、ここにあった。



4月10日、桜花賞。

1.シヨノロマン
2.ハルジオン
3.アイノマーチ
4.アラホウトク
5.エイユークイン
6.スカーレットリボン
7.フリートーク
8.マルシゲアトラス
9.フリークギャル
10.タマモスマート
11.マイネレーベン
12.シーバードパワー
13.シノクロス
14.テンザンタカネ
15.ネーハイコインド
16.スイートローザンヌ
17.オテンバギャル
18.リキアイノーザン


1番人気スカーレットリボン、2番人気スイートローザンヌ、3番人気シノクロス。

4番人気シヨノロマン、5番人気アラホウトク。



1枠1番、好スタートを切ったシヨノロマンだったが、果敢に行くアイノマーチ、大外から上がるリキアイノーザンに先を譲って、内3番手に控えた。

スカーレットリボン、マイネレーベンが続き、中団、内にアラホウトクがつけた。


中団外から行くのは、外枠ピンク帽スイートローザンヌ。

ぶっつけプラス10㌔の馬体、16番枠。ムリはできない。中団で時を待った。


その後方で末脚に賭けたシノクロス。


速い、速い桜花賞ペース。

行き過ぎれば、潰れる。

だが、悠長に構えていれば、届かない。


逃げるアイノマーチ、リキアイノーザンを目標に、各馬が殺到した4コーナー。

外から、スイートローザンヌ、シノクロスが接近した。


直線、内、外に大きく広がった。

どこが抜けてくるのか!


内から白い帽子、若い武豊がムチをふるう。

シヨノロマンが突き抜けて、先頭に立ったッ!


身も震える手応えに、躍動。ゴールをめざした。


外のスイートローザンヌ、シノクロスは・・・・・・伸びない。


その時、馬群を割って伸びてきた、アラホウトクだ。

鞍上は関西のトップジョッキー・河内洋。


勝ちを意識したシヨノロマンを、一気に抜き去った。


同厩舎、同厩務員の2頭のワンツー。


見事なまでの疾風が、桜の花びらを揺らし、散らせた。


1着アラホウトク

2着シヨノロマン

3着フリートーク

4着スイートローザンヌ

5着マルシゲアトラス



4着となった関東の逸材スイートローザンヌ。

オークスへ。


青鹿毛の馬体が、青い青い炎に・・・・・・揺らめいた。


(つづく)