重度の骨折によるサルノキングの皐月賞断念。
『サルノキング事件』の真相は闇のままに表舞台から消えた。
皐月賞。来るべきものは、やって来る。
サルノキングの離脱により、混迷を極めた。
とにもかくにも3戦3勝。『華麗なる一族』の御曹司ハギノカムイオー。
スプリングSで、サルノキングはともかく、ワカテンザン、アズマハンターを真剣勝負で打ち破ったのは事実だ。
華麗なるスピードを武器に頂点を狙う。
母オキワカは『貴公子』テンポイントの半姉というワカテンザン。
テンポイントが残せなかったクモワカ→ワカクモへと繋がる奇跡の血を、甥ワカテンザン繋いでみせる。
シンザン記念2着、きさらぎ賞1着、スプリングS2着、ひたすらに根性で走った。
大きな、大きな、目標。偉大な叔父テンポイントの背を追って。
新馬戦でリードエーティを6馬身ちぎったまま、骨膜炎で休養したロングヒエン。そのリードエーティが阪神3歳Sを勝ち、1勝のみのロングヒエン株は急上昇。
リードエーティが骨折で戦列を離れるや、ロングヒエンの復帰が待たれた。そして、明けて3月、アルメリア賞で復帰したロングヒエンは、またもぶっちぎり勝ち。
2着馬トーキングボーイに5馬身の差をつけて逃げ切った。
快速ロングヒエン。父ホープフリーオンからもマイラー。挑むのは距離の壁だった。
例年にない関西馬攻勢が続くなか、関東馬ではスプリングS3着のアズマハンター、弥生賞2着のアサカシルバー、東京4歳S2着、朝日杯3歳S4着、弥生賞4着のイーストボーイが期待された。が、4歳関東重賞をことごとく関西馬に獲られ、話題性においても劣勢は否めなかった。
4月18日、皐月賞。
1.カシマボーイ
2.アズマハンター
3.アスワン
4.アカデミックボーイ
5.イーストボーイ
6.ロードサルタン
7.ダイワハヤブサ
8.タケデンフドー
9.ロングヒエン
10.スカイキリュウ
11.モミジボーイ 出走取消
12.アカネジローマル
13.ハギノカムイオー
14.ディスクール
15.アサカシルバー
16.ワカテンザン
17.ハーバーモナーク
18.エリモローラ
19.コウチオウショウ
20.ダンサーズルーラ
21.ゲイルスポート
1番人気ハギノカムイオー、2番人気ロングヒエン、3番人気アズマハンター。
4番人気ワカテンザン、5番人気イーストボーイ。
1番人気ハギノカムイオー。馬主、厩舎、マスコミ・・・よってたかって奏でられた『ハギノカムイオー狂想曲』。
天は鉄槌を下した。
あろうことか、何も知らない馬に。明るいはずの未来を奪われたサルノキング。
そして、
ハギノカムイオーに。
3戦逃げ切りのハギノカムイオー。13番枠からスムーズに先頭に立とうとした時、
大外、2頭の馬が合わせ馬のように上がって行った。
ゲイルスポートとダンサーズルーラだ。
加賀武見、大崎昭一。関東の闘将といぶし銀。
関西の良血おぼっちゃまに、好きにはさせないッ!
ハナを奪われたハギノカムイオー。3番手、すぐ内には並んでロングヒエン。
最も過酷なレースとなった。
向こう正面に入り、ようやく先頭を行くゲイルスポートに並びかけようとした時、
後続が一気にやってきた。
アサカシルバー、エリモローラ、タケデンフドー。
激流の中で、ハギノカムイオーは我を忘れてもがき、苦しんだ。
後退していく1番人気。
沸き起こるどよめき。
アサカシルバーが先頭を奪い、直線に入ってきた。
最内から、いつのまにか忍び寄ったワカテンザン。
混戦こそ、わが出番! とばかりに鋭く差し込む。
外アサカシルバー、内ワカテンザン。
2頭の間を、一瞬のうちに突き抜けていく馬がいた。
豪脚というより、カミソリの切れ味。
スパーッと音もなく、影が走った。
中島啓之の絶妙の手綱さばきに操られた、アズマハンターだッ!
黒の勝負服が、風に舞った。
因縁多き皐月賞、見事に制したのは関東馬アズマハンターだった。
1着アズマハンター
2着ワカテンザン
3着アサカシルバー
4着タケデンフドー
5着エリモローラ
ハギノカムイオーは16着と敗れた。
(つづく)