4歳になり、リキアイオーに負け続けた朝日杯の覇者ビンゴガルー。

混戦の皐月賞を制し2冠目、ダービーをめざす。

父デュール、母父パーソロンからも距離に不安はなく、ダービー馬に近い存在として期待された。



父が初代アイドルホース・ハイセイコー。だが、3歳時は6戦1勝。クラシックとはほど遠い存在だったカツラノハイセイコ。

負けん気だけは強い馬だった。

4歳になり3連勝。スプリングS2着で、ファンのハイセイコー熱を沸き上がらせた。

皐月賞でビンゴガルーに敗れたが2着、父ハイセイコーが成し得なかったダービー制覇へ、夢は膨らんだ。

連戦連勝から一転したダービー3着、父ハイセイコーの屈辱。『怪物ハイセイコー』の終焉。

勝つ、きっと勝つ。父に代わって勝って、新しい伝説をつくる。



父はダービー馬ロングエース。ランドプリンス、タイテエムとともに『関西3強』と呼ばれた。

母の半妹にアイノクレスピン。インターグロリア、リニアクインと『関西牝馬3強』を形成。

良血テルテンリュウ。ダービートライアル・NHK杯を5番人気で制し、一躍有力候補にのし上がった。

激しい気性は両刃の剣も、鋭い差し脚は宝刀の切れ味。



小倉デビューの反逆児ネーハイジェト。過少評価に逆らい続けた。

一流馬に負けてなるものかッ!

4,1,2,2,4,4,2,1,2,3,1,2,3,2着。

つねに懸命、必死。5着よりも4着、4着よりも3着。一つでも前を、いつも、いつも追いかけた。

皐月賞3着。より前に、より前に、走った。



未勝利勝ち13戦目。『負け組』大将リンドプルバン、条件特別を勝って、ようやく間に合ったダービー。

ただ参加できるだけなら、意味はない。





5月27日、ダービー。

1.ヨシノスキー
2.マロンダンフイ
3.エンシンタロー
4.リンドプルバン
5.カシマセイカン
6.ヤマトキリシマ
7.カツラノハイセイコ
8.メイショウジャガー
9.ビンゴガルー
10.ネーハイジェット
11.オプテイミスト
12.サエキヒーロー
13.ハヤテアズマ
14.ニホンピロポリシー
15.メジロマーティン
16.シルクタイテー
17.テルテンリュウ
18.ファーストアモン
19.トウホクハヤテ
20.ワカムシャ
21.ファイングッド
22.ホットライン    出走取消
23.サクラエイリュウ
24.テルノエイト
25.ハーディープリンス
26.リキアイオー
27.ピュアーシンボリ



1番人気カツラノハイセイコ、2番人気ビンゴガルー、3番人気テルテンリュウ。

4番人気ネーハイジェット、5番人気リキアイオー。



1頭ホットラインが取り消して26頭立て。

フルゲート28頭に及ばずも、馬場いっぱいに広がったスタートの壮観さはダービーならでは。



外26番枠からスタートしたリキアイオー。定評ある快速も、外から一気に切れ込めない内外の差。

ハナを切ったのは、2枠5番カシマセイカン。2番手にハヤテアズマ。

外から上がって行ったテルノエイト、その後にリキアイオーは続いた。


10番手、ダービーポジションについたのは、カツラノハイセイコ。

ビンゴガルーは内でマークした。


ネーハイジェット、テルテンリュウは後方、じっと前を見つめた。



『もっとも運のある馬が勝つ』といわれたダービー。いまの大外18番枠でも、当時は中枠。外枠に入った馬たちの嘆き。

道中、いかにスムーズに馬群を捌くか? 数の試練を乗り越えたサバイバルのあとに、直線、雌雄を決する最後の戦いがある。


運なくて、ダービーは獲れない!


7番枠に入った。ダービー最適ポジションといわれる1コーナー10番手で進められた。

カツラノハイセイコに、天は味方したか?



3コーナー、リキアイオーが動いた。

弥生賞、スプリングSを逃げ切りながら、皐月賞でつかまったリキアイオー。

不運の外枠26番・・・嘆いてはいられない。我慢に我慢を重ね、ここで先頭に立った。


意地でも、逃げ切るッ!


外枠24番テルノエイトも続いた。シンザン記念の覇者、皐月賞は脚部不安で回避、ダービーにかけていた。

満を持して上がり始めたカツラノハイセイコ。

外から、抜群の手応えで上がってきたのはテルテンリュウ。



直線、リキアイオーが引き離した。


追ってくるのは・・・馬場の真ん中からカツラノハイセイコ、外からテルテンリュウ。



内を逃げるリキアイオー。

勢いは完全に外の2頭。カツラノハイセイコ、テルテンリュウ。


最内から、逃げるリキオアイオーのさらに内を通って、1頭の馬が伸びてきた。

2枠4番、終始最内で影を潜めていたリンドプルバンだ。



リキアイオーを交わし去った、カツラノハイセイコ、テルテンリュウ。

テルテンリュウの気性の激しさが悪い方に出始めた。


真っ直ぐ走らない。内へ内へ、カツラノハイセイコを押し込めるように寄れ出した。

気がつけば、カツラノハイセイコは内ラチまで寄らされていた。


1番の被害を受けたのは、リンドプルバンだった。

内、馬1頭分をすり抜けてリキアイオーを交わしたリンドプルバンの目の前に、突然、現れた2頭。


鞍上・嶋田功は手綱を引っ張るしかなかった。

勝負師・嶋田が狙った究極の勝利の道が、閉ざされた。



ゴール前100m、力尽きたテルテンリュウ。


栄光のゴールをめざすカツラノハイセイコに、

再び襲いかかったのは、態勢を立て直したリンドプルバンだった。


猛追!


カツラノハイセイコに、外から馬体をあわせたッ!


そこがゴールだった。




ハナ差。



最も運の強かったのは、




カツラノハイセイコだった。


父ハイセイコーの雪辱を果たした。



1着カツラノハイセイコ

2着リンドプルバン

3着テルテンリュウ

4着ビンゴガルー

5着ネーハイジェット



(つづく)