馬インフルエンザの影響で、関西優位に進んだ72年クラシック戦線。

ダービーでは関西3強ロングエース、ランドプリンス、タイテエムによるワン・ツー・スリーフィニッシュ。

菊花賞は3強の一角タイテエムの無冠返上か、と思われたが・・・関東馬イシノヒカルの怒りの激走。

留まるところを知らない激走は、3頭の天皇賞馬を相手に有馬記念でも炸裂。


イシノヒカルは年度代表馬に輝いた。


それとともに4歳馬(現表記3歳)のレベルの高さを証明。


残念なことに3強・ダービー馬ロングエースは有馬記念8着を最後に引退。

イシノヒカルも73年早々に球節炎を発症、10カ月後に復帰もオープンでドンジリに敗れ、引退することになる。



無冠の貴公子タイテエムは休養に入り、世代のトップホースとして天皇賞制覇を狙う。

レベル高い世代を守るため。



もう1頭、眠れる獅子が北海道にいた。タニノチカラだ。

70年皐月・ダービー2冠馬タニノムーティエの半弟。4戦1勝、2着2回、3着1回。

管骨骨折休養、さらに左前手根骨骨折、一時は命をも危ぶまれたが死の淵から這い上がり、ひたすら復帰を待っている。

兄タニノムーティエをも超える素材。このままでは終われない。




3歳若駒。


関東、朝日杯3歳Sで1番人気となったのは牝馬マミーブルーだ。新馬戦から5連勝。京成杯3歳Sを制したスピード自慢。

新潟3歳Sを勝ったベルロイヤル、2勝、2着2回が2番人気。

北海道3歳Sの覇者、7戦4勝、2着1回、3着1回のユウシオが3番人気。


勝ったのは、8番人気レッドイーグル。新馬から3連勝を飾ったが、右前肢第3中手骨骨折。

2度とターフに戻ることなく引退した。


2着には9番人気ケープコード、3着に11番人気ダイニマツレンが入り、大波乱の一戦となり、敗れた人気馬マミーブルー9着、ベルロイヤル7着、ユウシオ11着。

混沌とする3歳馬戦線。

だが、すべては73年春に中央競馬にやってくる怪物によって、霧散することとなる。


大井からやってくる『怪物』ハイセイコー一色のクラシック戦線となるのだ。




関西は1頭の牝馬によって席巻された。

新馬戦大差逃げ切り勝ち。

デイリー杯3歳S、8馬身差逃げ切り。

オープン、4馬身差逃げ切り。

阪神3歳Sを、13頭の牡馬陣(他に牝馬1頭出走)を従えて堂々と逃げ、2番人気ヨドヒーローに5馬身の差をつけて圧勝したキシュウローレル。

黒鹿毛の馬体から『黒衣の麗人』と呼ばれ、牝馬クラシック、少なくとも桜の女王はこの馬しかない、といわれた。



1973年春、華やかさを待つ冬の木枯らしは、黒い旋風が吹き荒れていた。