春の天皇賞はベルワイドは勝ち、2着となったのは遅れてきた大物キームスビィミー。

天皇賞時点で16戦9勝も、クラシック出走経験がなく天皇賞が初の大レースだった。


ダイシンボルガードが前年の有馬記念で引退。アカネテンリュウが、シュンサクリュウがこの春の天皇賞で引退。スピーデーワンダーは先の見えぬ休養。


宝塚記念は不良馬場のなかショウフウミドリが制し、高松宮杯は牝馬ジョセツ。

アルゼンチンJCCはゼンマツ、日本経済賞はカツタイコウ。


混沌としていた古馬戦線。




秋に入り、ハリウッドターフクラブ賞をキームスビィミーがレコード勝ちし、天皇賞へ弾みをつけた。


関東では目黒記念を制したカツタイコウ。

3歳(現表記2歳)時には朝日杯3歳S2着の実績あるカツタイコウ。新馬勝ったあと2勝目が13戦目と伸び悩み、クラシックは未出走。古馬になって天皇賞春挑戦は13着。目黒記念で重賞3勝目を挙げ、本格化を見せてきた。


1970年菊花賞、ダテテンリュウの2着したタマホープ。半年以上の休養を2度挟み、オープン、ハリウッドターフクラブ賞、目黒記念、3連続2着。もう、2着はいらない。



叩き上げ。負けても、負けても這い上がってきた馬もいる。


3歳時6戦1勝、4歳時17戦1勝、5歳時15戦2勝、大レースには無縁だったパッシングゴール。初の8カ月に及ぶ休養で馬が変わったか? 6歳時6戦4勝、7歳にして条件の身で新潟記念を勝利。54戦目で初重賞制覇を果たした。勢いに乗り関屋記念重賞2勝目。天皇賞へ挑戦。


4歳時14戦2勝。5歳時13戦4勝。6歳4月6戦目、通算31戦目にして条件馬を卒業。重賞7戦目の京都記念で重賞初勝利。天皇賞に駒をすすめてきたのが、ヤマニンウエーブだ。


父ヴィミーのパッシングゴール。父ラヴァンダンのヤマニンウエーブ。ともにスタミナ自慢の長距離血統であったことが一致していた。

面白い偶然は、パッシングゴールの母の名がヤマニンウエーだったこと。




11月26日、天皇賞秋。


1.コーヨー
2.ゼンマツ
3.サンセイソロン
4.オウジャ
5.パッシングゴール
6.カツタイコウ
7.カヤヌマタイム
8.サクラオンリー
9.トウショウピット
10.オンワードガイ
11.キームスビィミー
12.コンチネンタル
13.ヤマニンウエーブ
14.キクノハッピー
15.タマホープ


1番人気キームスビィミー、2番人気カツタイコウ、3番人気タマホープ。

4番人気オンワードガイ、5番人気ゼンマツ。


ヤマニンウエーブは7番人気、パッシングゴールは8番人気だった。

また、5度目の天皇賞挑戦、コンチネンタルは天皇賞春11着から、ぶっつけ本番。さすがに12番人気と人気は落ちていた。




ゲートが開くなりオウジャが騎手落馬、という波乱の幕開け。

飛び出したパッシングゴール。

騎手4年目の新田幸春(後の松田幸春)がパッシングゴール一世一代の大バクチを打った。


2000m以上を走ったことがなかったパッシングゴール。

ほとんどのレースで、逃げることもなかった。


父が1番人気キームスビィミーと同じヴィミー。ただ血の確かさに期待して、若武者・新田幸春は逃げの手に出た。


離れた2番手をキクノハッピー。さらに3,4馬身離れてカツタイコウ、サクラオンリー、オンワードガイ。

その後ろからキームスビィミー。内を行くコンチネンタル。

後方にタマホープ。


最後方はいつものゼンマツ。直線だけに賭ける。

その前を走るのが、騎手5年目、天才・福永洋一が乗るヤマニンウエーブだ。



天才が乗るようになって京都記念を制したヤマニンウエーブ。どんな、アッと言わせる騎乗を見せるのか? アナ党は期待した。



だが、アッと言わせたのは、パッシングゴールだった。



1周目ゴール板前では20馬身の差を広げた。



向う正面、30馬身、40馬身、後続を引き離すパッシングゴール。



玉砕か?


栄冠か?



誰もが直線もたない、思った。


動かない後続。



ただ1頭、後続から押し上げる馬がいた。



ヤマニンウエーブだ。


鞍上・福永洋一は、只事でないことを察知した。



逃げ切られるッ。



外を通ってスパートした。



3コーナーから4コーナー、パッシングゴールと後続の差が一気に縮まった。


追うカツタイコウ、キームスビィミー。

すぐ外に、ヤマニンウエーブがYって来ていた。



直線、逃げるパッシングゴール。


迫るカツタイコウ、キームスビィミー。


並びかける勢いッ!



だが、


また伸びた、パッシングゴール。



余力があった。


いや、底知れぬ我慢。



無理だと思っても、もうちょっとだけ、がんばろう。

自分に言い聞かせて、パッシングゴールは走った。


いまより、ほんの少し、がんばろう。


あと100m、あと50m、あと、10m。



がんばりが、ゴールまで迫らせていた。




そのがんばりも打ち砕いた。



大外から伸びたのは、ヤマニンウエーブだった。



天才のムチがしなり、ヤマニンウエーブがゴール前、矢のように伸びた。



わずかクビ差、



ヤマニンウエーブが差し切っていた。



1着ヤマニンウエーブ

2着パッシングゴール

3着カツタイコウ

4着キームスビィミー

5着サクラオンリー



(つづく)