ダンスパートナー、ダンスインザダーク、ダンスインザムードがいるダンシングキイの牝系。

エアグルーヴ、アドマイヤグルーヴと続くダイナカールの牝系。

一族としては、ダイワメジャー、ダイワスカーレット、ヴァーミリアンを輩出している、スカーレットインクから派生するスカーレット一族。


勢いのある牝系である。


劣らない勢いをもつバラ一族。

フランスから輸入されたローザネイ(バラの妖精)から端を発するが、バラ一族としてマスコミで言われ出したのは、ローズバド(バラの蕾)が最初だ。

父サンデーサイレンス、母ロゼカラー。母の父シャーリーハイツ。


母ロゼカラー(バラ色)は重賞1勝、オークス4着、秋華賞3着。

叔父ロサード(バラ色の)は重賞5勝、

叔父ヴィータローザ(バラ色の人生)は重賞3勝。


ローズ、ローザ、ロゼの冠をつけ、ターフに活躍したローザネイの子孫たち。

多くの重賞を制覇した。


ただ、獲れない冠、G1勝利。


いつしか、悲願となった。


その思いの最も顕著だったのがローズバドであり、その仔も併せて一族に『悲願』の2文字を象徴づけたのがローズバドだった。



1998年、4月29日。北海道早来町・ノーザンファームで生まれた青毛の牝馬。

漆黒の馬体、紫の光彩を放つ仔馬には、生まれた時から大きな期待がかけられていた。


バラの名をもつ良血、ローズバド。

社交界にデビューするバラの蕾。


華やかな牝馬クラシックこそ、競走馬の社交界。



2000年、2歳時はそ4戦目でようやく未勝利勝ち。蕾さえ膨らまなかった。


2001年、2月、500万下を10着。


3月、桜花賞トライアル・フィリーズレビュー。

4コーナーを13番手から、強烈な追い込みでハッピーパス以下を差し切った。2勝目が重賞初勝利。


いきなり膨らんだ蕾も、熱発で桜花賞を回避。


4月、オークストライアル・フローラSをオイワケヒカリの3着。


5月20日、オークス。

ようやくにして、臨んだ牝馬の社交界。


6戦5勝、3着1回、桜花賞馬テイエムオーシャン。

桜花賞2着馬、ムーンライトタンゴ。

桜花賞3着馬、ダイワルージュ(スカーレット一族)。


後方から一気に差し切った。が、しかし、

影のように馬体を接して、共に伸びた馬がいた。

レディパステルだ。


クビ差、ローズバドは負けた。オークス2着。



9月、秋華賞トライアル・ローズS。

例によって後方から差し込むも、先行したダイヤモンドビコーを捉えられず2着。



10月14日、秋華賞。

最後方から、レディパステルを見据えた。

1番人気は3番手を行くテイエムオーシャン。


直線、追い上げるレディパステル、さらに上回る末脚を見せたローズバド。


勝てるッ!


レディパステルを差し、置き去りにした。


しかし、その前にいたテイエムオーシャンの脚は鈍らなかった。


4分の3馬身、届かず秋華賞2着、ローズバド。



そこまで、もうそこまで来ているG1載冠。

歯痒さを、漆黒の馬体に押し込めた。



11月11日。エリザベス女王杯。

1番人気がテイエムオーシャン。

2番人気にローズバド。

3番人気はレディパステル。


4番人気が2歳上、有り余る素質を持ちながらG1勝ちのないトゥザヴィクトリー(トゥザグローリーの母)だった。


オークスをパステルに、秋華賞をテイエムに、わずかなところで冠を持って行かれたローズバド。

もう、負けるわけには、いかない。


バラ一族の『悲願』、マスコミの紙面に踊り出した2文字。


ヤマカツスズランが逃げた。タイキポーラが追いかける。

3番手、定位置となったテイエムオーシャン。


レディパステルは9番手。それを睨むローズバド、14番手。


それぞれが、それぞれの正攻法で真っ向勝負!


ただ、いつもは前に行くトゥザヴィクトリーが、後方、レディパステルのすぐ後ろにいる。

鞍上は武豊。秘策ありか?


入り乱れる騎手の思いを隠し、淡々と進むレース。


直線、3番手から先頭に立って、逃げ込みを図るテイエムオーシャン、

溜めに溜めた後続、有力馬が一気に動いた。


前年の秋華賞馬ティコティコタック、並んで追い上げるレディパステル!


これほどの切れ味があったのかッ? 驚くほどのトゥザヴィクトリー!


一番遅れて、末脚を繰り出すローズバド!



自信はあった。


脚の軽やかさが違った。これで勝てないようなら・・・、


一気に鬼脚を使ったローズバド。

上がり3ハロン、33秒4の切れ味を見せた。



誰も譲らない。

5頭が最高のパフォーマンスを見せ、馬体を並べてゴールへ飛び込んだ。


ハナ、ハナ、クビ、クビ、エリザベス史上に残る大接戦!



4,5着はレディパステル、テイエムオーシャン。



3着、ティコティコタック。




2着、ハナ差に泣いたのが、ローズバドだった。



ついに載冠ならず、『悲願』は継続された。




4歳、5歳、6歳春まで走ったローズバド。

エリゼベス女王杯で燃え尽きたか、『悲願』もほど遠くなり、引退した。




そして、母となり、ローザブランカを産み、ローズリパブリックを産み、


キングカメハメハとの間に産んだ第3仔が、ローズキングダム(バラの王国)だった。


一族の野望、母の夢。


『悲願』を果たしたローズキングダム。


朝日杯FSを制し、ジャパンカップを優勝した。




遠く北の大地で、




わが仔に想いを馳せるローズバド。




その知らせを、




どんな思いで聞いただろう。





漆黒の馬体に、





紫の光彩は輝いていただろうか?




ローズバド、




母となり、しあわせ謳歌!