2000年5月26日、北海道千歳市・社台ファームに生まれたザッツザプレンティ。

父ダンスインザダーク、母バブルプロスペクター。母の父ミスワキ。


ザッツザプレンティ=「こいつはサイコーだぜ」。

ダンスインザダークの最高傑作となるべく名づけられた。


2002年、11月。新馬戦芝2000mでデビュー。

4番人気も、単勝1.8倍という1番人気スズカドリームを3馬身半ちぎって勝利。


続く京都2歳Sを2着のあと、ラジオたんぱ杯2歳Sで2着馬チキリテイオーを4馬身離して勝利した。


初重賞勝利。3戦2勝、2着1回。

すべて芝2000m、クラシックを意識した距離を走り、関西の有力馬として名を馳せた。


まさに最高をめざす、サイコーな走りを見せた2歳。

夢は大きく広がった。



2003年、3歳。

初戦弥生賞では単勝1.5倍の1番人気も、道中落テツ、エイシンチャンプの0.3秒差、6着に敗れた。


4月、皐月賞。

とんでもない馬たちと出くわす。

4戦3勝、3着1回。スプリングSを勝ったネオユニヴァース。

4戦2勝、2着2回。スプリングSで2着だったサクラプレジデント。

ともに父の父サンデーサイレンス産駒。


3番手につけて出し抜けを狙ったザッツザプレンティだったが、直線、次々と抜かされて8着惨敗。

1着ネオユニヴァース、2着サクラプレジデント。



6月、ダービー。

もう1頭、凄いヤツが出てきた。

4戦3勝、3着1回。青葉賞を勝った藤沢厩舎の秘蔵っ仔、ゼンノロブロイ。

サンデーサイレンス産駒。


すみれ賞を勝って、リンカーンもようやくクラシックに間に合った。5戦3勝、2着2回。

サンデーサイレンス産駒。


ダンスインザダークの最高傑作はオレだぁー、

小さく叫んでも、かき消されてしまう、サンデー全盛の大物たち。


中団から早めに進出、意地で粘ったザッツザプレンティ。

3着だった。


1着ネオユニヴァース、2着ゼンノロブロイ。サクラプレジデント、リンカーンは7,8着と敗れた。


ネオユニヴァースが2冠達成。

皇帝シンボリルドルフ以来の3冠へ。

話題は集中した。




秋、神戸新聞杯。


3冠狙うネオユニヴァース。

阻止、その一点で集った大物たち。

サクラプレジデント、ゼンノロブロイ、リンカーン。

ザッツザプレンティも参戦。


1番人気は2冠馬ネオユニヴァースでなく、サクラプレジデントだった。

冠はなくとも、大物たちの実力は接近していた証拠だ。


脇役に甘んじていたのが、ザッツザプレンティ。

本家サンデー産駒の前で、委縮していたか、分家ザッツザプレンティ。


2番手から4コーナー先頭、相も変わらず、早め抜け出し作戦。


大物たちの切れ味は、違った。

次々と差され、5着。


1着ゼンノロブロイ、2着サクラプレジデント、3着ネオユニヴァース、4着リンカーン。



10月26日、菊花賞。

3冠危うし、の中、1番人気はかろうじてネオユニヴァース、2.3倍。

2番人気、2.5倍ゼンノロブロイ。3番人気サクラプレジデント6.1倍。4番人気リンカーン14.4倍。


ザッツザプレンティは5番人気、20.2倍だった。


逃げたのはシルクチャンピオン、1000m通過60秒6、平均ペースだった。


中団につけたザッツザプレンティ。

鞍上は皐月賞以来、手綱を握る安藤勝己。中央競馬へ移籍してきた年だった。


誰もザッツザプレンティを相手にしていない。

マークの中心は2冠馬、ネオユニヴァース。


3コーナーから一気にザッツプレンティは動いた。

父は菊花賞馬ダンスインザダーク。


3000mには自信ありありの、サイコー野郎が動いた。

負けても、負けても、早め4コーナー先頭、抜け出しを図っていた安勝。


どうせ・・・、と見くびっているのはいまのうち、

この距離なら、抜かせないッ!


4コーナーを先頭で回ると、後ろを見ない。

ひたすら、前を見て、追った安勝!


3冠めざすネオユニヴァースが早めに2番手に上がって来ていたが、

伸びは鋭くない。


後方から、詰めるゼンノロブロイ、リンカーン。プレジデントは最後方から。


なかでもリンカーンが伸びた!


3冠、意地で伸びるネオユニヴァース!



必死だ、ザッツザプレンティ。



止まらぬことを気付かれた。



追ってくるッ!



振り向かなくとも、蹄の音が、高く、近く、迫る。




なんという快感!




苦しいのに、




脚は、辛いのに、





これが、勝負?





己のすべてを賭ける快感。





こいつぁ、サイコーだぜぃ!





ザッツザプレンティは




苦しさであえぎながらも、




めいっぱい、跳ねた! 飛んだ!






そこに待っていたのは、





輝く栄光のゴールだった。





父は菊花賞馬ダンスインザダーク。





そのサイコー傑作、ザッツザプレンティ。





サイコーな野郎だった。