『どうじゃ、苦しかろう、辛かろう。憎むなら自分自身を憎め。おまえら人間どもが、いかに濁った存在か、ようーく、理解したろう。このバリアーの中では誤魔化しは通用せん。曇り一点もない清らかな精神をもった人間以外は、自分の中にある悪の心が己が身をついばむのだ。思い知れっ!』

言う通りバリアーの中に入って、三歩、膝から崩れたキョウタ。

口から吐き出す血反吐、全身が震えだし、心に潜む悪のすべてがキョウタの身をそぎ落とし始めた。

「ウグググッ、ゥグッ」

必死に痛みに耐える顔はゆがみ、

頬は見る間にこけ、

手も足も骸骨の上に皮膚がある状態。

『フハハハッ、醜いのぉ、それが真実のおまえじゃ。おまえたち人間どもは醜い。悪が充満しておる。私自身をも、創り出したのは人間の心だ。おまえたち人間の邪悪さが私を生んだ。ならば、人間の悪をすべて集め、邪悪な世界を創り上げてやる。私の考えは正しい。正義感? ちっぽけな偽善で私の邪魔をしたものどもよ、己の醜さを知るがいいわ!』

目だけは、ランランと輝くキョウタ。

歯を食いしばり立ち上がった。

一歩、一歩と前進する。

「て、てめぇ、クソ機械野郎。ざけんじゃねぇ。・・・・・確かに、オレたちは嘘をつく、騙す、恨む、妬む、・・・・・・人間なんて大っ嫌いだ、思うこともある。・・・・・自分が自分でイヤんなることも・・・あるさ。・・・・・・でもよう、・・・・好きなんだ。人が、・・・自分が。・・・・・嫌い以上に、その何十倍も・・・・好きなんだようッ! ばかやろうめ!・・・・・わかるか、この気持。・・・・だから、だから、・・・・・・何があったって、オレは負けない!」


「キョウータァ!」

ナミが叫んだ。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ナミが叫んだ。

「私、正直言わなかったけど、キョウタが好き! 大好きッ! キョウタと一緒なら、ここで死んだって構わない! いつも一緒だよッ!」

「あ、ありがと。・・・・ナミ。・・・・・死なせやしない。・・・・・約束、・・・・・オレは・・・・おまえを・・・・・・守る!」


あえぎながら、たどり着いた機械の前、キョウタ。

『よく来たな。それは誉めてやろう。だが、その体で何ができる? なぜただけで私は壊せんぞ。フハハハッ、あと、1分を切ったぞ』


「キョウタ! オレがアロンダイトに変身する。そやから、それでヤツをぶっ壊してくれ! コウヘイ、キョウタに投げてくれ、頼むで」

「ダメ、シンジ! ここで妖術使ったら、二度と戻れなくなる」

「いいよ、女史。オレも、みんな、好きなんや」


バンパイヤ、シンジは妖術を使った。くるりと回転すると、そこに残ったのは聖剣アロンダイト。

つかんだコウヘイ。あふれる涙をおさえ、キョウタめがけて投げた。

「頼んだよ、シンジ! キョウタ、つかめ!」


細くなった両の手で、だが、ガッシリとつかんだキョウタ。時間はない。

「いいか、よく聞けえ! ・・・・・オレたちはな、怠惰で、弱くて、情けなくて、・・・・・・どうしよもない・・・・かもしれない。・・・・だがよ、・・・・・・・仲間がいるかぎり・・・・強く、強く、強く、・・・・・なれるんだ!・・・・・・ぬぅぉぉおおおおおおおおーっ!」


振りかぶったキョウタ、渾身の一撃!


アロンダイトが一閃!


轟音とともに、眩いまでの光が放たれた!



うぁぁぁぁああああああああーっ。


暗い闇へと落ちていく摩訶不思議探検隊。





気が付けば、全員、バスの中。無事だ。


高速道路から外れた空き地にバスはあった。

周りにおびただしい数の人が倒れている。鵺の虜にされた人々か?

気が付き、うめく声。生きている。

倒れているなかにコナンの両親もいた。

駆け寄るコナン。


「ふぅーっ、なんとか無事バーチャルから抜け出せたようだな」

ゲンジイの言葉にうなづく面々。

しばし、言葉がでない。

バーチャルの世界の辛さ、すべて元のままの現実。ギャップ。

夢かと思ってしまう。



「あのさぁ、ナミ、オレのこと、好きって言ったよな。ナ、ナ、言ったよな」

「あれ? キョウタ、まだ夢みてんのか? んなのは、みんな夢ん中だよ」

「えっ? えっ? みんな、ナミが言ったよな。オレのこと好きだって。な、サチ、そだよね」

「さぁ、私、覚えてないっし」

「あれ、ツメテーの。ヤな双子だよ」

「ヤでケッコー。サチ、そんなやつ、相手にすんじゃないよ」

「あーっ、クソッ、わかんねぇー、女ごころ」(笑)


「キョウタ、摩訶不思議は女なり、かもしれんで」


「そだよな。摩訶不思議女ごころ、でも探検してみたい、てか。アッ、イテェッ」

「うっせェんだよ」

ナミのいつもの鉄拳がキョウタの頭に。痛がるキョウタ除いて全員、爆笑。


摩訶不思議探検隊、その旅を終えた。