二人上り始めたロープ。サチとコウヘイ。

少しでもサチの負担を、コウヘイ、サチを肩に乗せ、サチが先に、コウヘイ続く。


ギシッ、ギシッ、リズミカルにサチ、思いのほか腕力あり。

「コウヘイ、横穴! 横穴が開いてる」

サチの言葉にコウヘイは急ぎ上がる。

「ホントだ! 行ってみよう」

6mほど上がった所に、確かに横穴、。ロープに遠い方。その先は暗い。が、穴は続いている。行くしかない。即決、即行。迷いはなかった。


二人して、ロープに近い岩壁蹴った。反動、戻り、また蹴る。大きくなった振り幅。

「行くぞ! 1、2,3!」


転がるように、横穴に飛び込んだ。

「イテッ! ゴツゴツだ。大丈夫? サチ」

「うん、だいじょーぶ。でも、痛いね」


立ち上がった二人は、とりあえず暗闇へ向かって歩き出した。

この道しかない。ダメなら、また考えるだけだ。

じっと助けを待つ状態じゃない。それだけはわかっていた。


洞窟の底にいる時よりさらに暗くなったなかを、二人は前へと進んだ。自然とつなぎ合う手。

信頼の絆。安心の支え。


「コウヘイ、暗いね、怖いね」

「大丈夫だよ、サチ」

コウヘイは握った手に力を込めた。

勇気を与えたかった。


と同時にサチを愛おしく思えた。

愛おしく思える自分を否定する自分がいた。


おまえは誰が好きだったんだ。


頭の中の感情と、現実の心を揺さぶる感情は違った。

理屈じゃない。


とまどいのコウヘイ。知るはずもなくサチはコウヘイを頼った。

コウヘイのお陰で、素の自分が出せる気がしていた。


グゴゴゴォォォーッ、突然の轟音。

前からだ! 闇の中から凄いスピードで鵺が現れた。


「コウヘイ! 私の後ろに隠れてッ、早く!」

言うなり、前へ一歩踏み出したサチは身構えた。

両手を突き出して、掌に気を溜める。


迫る鵺。

「いまだっ!」


一気に両の掌から気を放った!

凄まじい勢いで鵺を弾き返した。


ズグッグググゥーン! その勢いは鵺を弾き飛ばして、なお、岩壁をも突き崩したようだ。

前方に、ポッカリ穴があいて、明りが見えた。


「ス、スゴイ!」

サチの破壊力に、いまさらに呆気にとられるコウヘイ。サチの後ろに座り込み、感心。


コウヘイの心のとまどいも吹き飛んだ、か。



明りの向こうに人影、まばら。

こっちに近づく影。


何者?


「ナミ、ナミぃーっ!」

サチが駆け出した。

「えっ、えっ? えっ」

コウヘイも後を追った。

(つづく)